ニュースなどで耳にすることがある『欧州中央銀行』とは、どのような存在なのでしょうか?金融に関して詳しくない人でも分かるように、組織の概要や役割を紹介します。主な金融政策や利上げについても理解を深めましょう。
欧州中央銀行とは?
欧州中央銀行という言葉を聞いたことがあっても、どのような組織なのか説明できない人は少なくありません。まずは組織の概要や役割を把握しましょう。
■ユーロ通貨圏の金融政策を担う中央銀行
欧州中央銀行は『European Central Bank(ECB)』の日本語訳です。ユーロ通貨の発行や価値の維持を管理するなど、ユーロ圏の経済を監督し金融政策を担う中央銀行を指します。設立されたのは1998年6月で、ドイツのフランクフルトに本部を構えています。
ユーロが法定通貨とされているのは、欧州連合(EU)加盟国27カ国中20カ国(2023年11月現在)です。EU加盟国の全ての中央銀行が加盟しているわけではありません。例えば、スウェーデンはEU加盟国ですが、ユーロを導入しておらず、独自の通貨を使っています。
欧州中央銀行の政策や動向は、アメリカの中央銀行にあたる『連邦準備制度理事会(FRB)』と同様に世界的に注目されています。
■欧州中央銀行の役割
欧州中央銀行の役割は、『欧州連合条約(マーストリヒト条約)』で定められています。主な役割は、ユーロ圏の物価の安定を維持することです。インフレを抑制し物価の安定を維持することは、経済成長や雇用の創出につながるためです。
そのほかにも、人々が安心して利用できるように安全な金融システムの確立や安全性の維持、ユーロ紙幣の発行や技術的な改善も担っています。国をまたいでも電子決済などがスムーズに行えるように、金融インフラを円滑に運用できるよう管理するのも役割です。
■政策理事会が金融政策を決定
金融政策は、欧州中央銀行の最高意思決定機関である『政策理事会(Governing Council)』で決定されます。政策は6週間ごとに、欧州中央銀行の総裁(1人)・副総裁(1人)・専務理事(4人)と、ユーロ圏の中央銀行総裁(19人)のうち輪番による15の中銀総裁の多数決で決定しています。
政策理事会での決定に沿って金融政策が実施されますが、ユーロ圏の中央銀行に適切な指示が出されるというのが一般的な流れです。政策理事会で話し合われた内容については、開催日から4週間後に議事要旨が公表されます。
■各政府から独立した組織
欧州中央銀行は金融政策の決定において、ユーロ圏の各政府や組織から影響を受けることのない独立した組織です。政治的な介入を受けず、ユーロ圏全体の経済状態を踏まえて政策を決定・実行しています。
独立性が重視されているのは、かつてはヨーロッパの多くの国において、それぞれの政府が中央銀行の政策運営に対する決定権を実質的に握っていたことに対する反省からです。欧州中央銀行は、世界的に見ても独立性が非常に高いことで知られた、ドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)をモデルとして設立されました。
知っておきたい欧州中央銀行制度(ESCB)
欧州中央銀行を理解する上で知っておきたいのが、『欧州中央銀行制度』です。具体的にどのような制度なのか紹介します。また、ユーロを導入していない国の中央銀行の立場についても確認しましょう。
■ユーロ圏各国の金融政策を統括する仕組み
『European System of Central Banks』の略称である『ESCB』と呼ばれる場合もある欧州中央銀行制度は、ユーロを導入したユーロ圏各国の金融政策を統括する仕組みです。
欧州中央銀行とEU加盟国の各中央銀行で構成されており、欧州中央銀行の政策理事会と役員会によって運営されています。欧州中央銀行が中心となり、各中央銀行と連携してユーロ圏全体の経済成長を促し雇用を創出するのが主要な目的です。
金融政策の決定・実施にとどまらず、加盟国の公的外貨準備の保有・運営、外国為替操作の実施なども担っています。
■ユーロ非導入国中央銀行の立場
ユーロを導入していない国の中央銀行は、自国の通貨発行や経済・物価の安定の促進など、各国独自の金融政策を決定・実行しています。
同時に、欧州中央銀行の『一般理事会(General Council)』のメンバーとして、特別な地位も持っています。一般理事会のメンバーは、欧州中央銀行の総裁・副総裁・ユーロ圏の中央銀行総裁19人、非ユーロ圏の中央銀行総裁9人の合計30名です。
ユーロ圏の金融政策の決定や実施には参加しないものの、ユーロ圏と非ユーロ圏の協力や情報共有を行うのが重要な目的とされます。
欧州中央銀行の主な金融政策
欧州中央銀行は、具体的にどのような金融政策を実施しているのでしょうか?主な政策を確認し、欧州中央銀行に対する理解を深めましょう。
■公開市場操作・最低準備預金制度
金融政策の一つが、オペレーションやオペとも呼ばれる『公開市場操作』です。ユーロ圏およびEU全体の経済状況を考慮し、金融機関が保有する国債などを担保にして、各国の中央銀行が金融機関に対して資金を貸し出します。金利の調節や、金融政策の方向性・スタンスを市場に対して示すのが主な目的です。
『最低準備預金制度』と呼ばれる政策もあります。欧州中央銀行の指示に従って金融機関から各国の中央銀行へ預金をさせる制度のことです。市場から資金を吸い上げ、市場金利を安定させるのが目的とされます。
■常設ファシリティ
主にユーロ圏の銀行間における短期資金貸借取引の金利指標である『EONIA(ユーロ圏無担保翌日物平均金利)』の金利変動の縮小を目的に、実施されているのが『常設ファシリティ』と呼ばれる政策です。
『限界貸付』と『中銀預け』があり、金融機関からの要請に基づき実施されます。限界貸付は各中央銀行が金融機関にオーバーナイトの貸付をすることで、限界貸付金利はEONIAの上限になります。金融機関が市場から資金を調達できない場合に行われます。
中銀預けは、金融機関が欧州中央銀行にオーバーナイトの預金をすることで、中銀預け金利はEONIAの下限となります。金融機関が市場で借り手を見つけられない場合に実施されます。
中央銀行が行う利上げとは?
ニュースなどで耳にする『利上げ』という言葉は知っている人もいるでしょう。しかし、詳しく説明できない人も少なくありません。中央銀行が行う利上げがどのようなものなのか確認しましょう。欧州中央銀行における政策金利についても紹介します。
■「政策金利の引き上げ」のこと
利上げは、各国の中央銀行が実施する政策金利の引き上げを指します。政策金利は、中央銀行が金融機関にお金を貸し出す際に使われる短期金利です。
政策金利を上げたり下げたりするのは、景気や物価を安定させることを目的としています。例えば景気が良いときは、市場の過熱を抑え景気を落ち着かせるために、利上げを行います。逆に景気が悪いときに行うのが、景気を活発にするための利下げです。
利上げは、個人消費や株価、為替などに影響します。例えば、住宅や車を購入するためのローンの金利が上がれば、毎月の返済額や総返済額が増えるため、ローンを組みづらくなります。金利が下がるまでローンを組むのを控える人も増えるでしょう。
また、利上げが行われると貸出金利が上がるため、多くの企業が銀行からの借入を控える傾向にあります。資金不足から業績が悪化し、株価の下落につながるケースも珍しくありません。
■ECBによる政策金利の現状とこれから
欧州中央銀行による政策金利は、2022年7月から徐々に上昇を始めています。度重なる利上げにより、近年において最も高い金利を維持しているのが現状です。高止まりしている金利が、今後どの程度の期間にわたって続くのか注目されています。
一方で日本では、日本銀行が物価や賃金などの動向を見極めている段階で、利上げの見通しは来年以降と考えられています。日本とアメリカ・欧州の金利差の拡大に伴う円安の現状が、すぐに改善されるのは現実的に難しいといえるでしょう。
文/編集部