全長4075mmのルノーのコンパクトカー「ルーテシア」は1990年に初代が登場し、現行モデルは2020年にフルモデルチェンジをはたした5代目。欧州では人気車種で、4代目までのシリーズ累計で1500万台を販売。これまで欧州カー・オブ・ザ・イヤーを2回も獲得している名車だ。
さらに、欧州Bセグメントモデルの中で、販売台数で1位を2013年から2020年まで8年連続で達成している。それ以降も常に上位にランクされているベストセラーモデルでもある。高評価の理由は、コンパクトカーの枠を超えた品質、機能、装備だという。
その「ルーテシア」にルノー独自のフルハイブリッド車「E-TECH HYBRID」が加わったのが2022年6月。そして、今回この「E-TECH HYBRID」をベースに内外装を充実させた「E-TECHエンジニアード」が登場した。独自のフルハイブリッド開発により、燃費はWLTCモードで17.0kmLを達成。これは輸入車の中ではトップクラスに属する数値だ。
さらに「E-TECH HYBRID」は329万円、エンジニアード379万円という車両価格も魅力となり、今ではルノー車の中でのベストセラーは「カングー」ではなく「ルーテシア」になっているという。今回は新たに加わった「E-TECHエンジニアード」に試乗してみた。
外装はブラックの前後エムブレム、フロントグリルガーニッシュ、その下部にはチタニウムカラーのF1ブレード。リアバンパーフィニッシャーも採用されている。室内はカーボン調ダッシュボード、ドアトリム、アルミペダルなどでスポーティな雰囲気がある。BOSEサウンドシステムも標準装備だ。
パワーユニットは、すでに何度も書いたようにルノーがトヨタのハイブリッド特許の網をかいくぐって開発したフルハイブリッド。メインモーター(駆動用)とHSG(ハイボルデージスターター&ジェネレーター)の2つのモーターと1.6L自然給気ガソリンエンジンを、電子制御ドグクラッチマルチモードATでつないだハイブリッドシステムだ。
自然給気の1.6Lは91PS、144Nm。メインモーターは49PS、205Nm、HSGは20PS、50Nmを発生する。2022年9月にデビューした頃のE-TECH HYBRIDは、ドグクラッチのつながりなどのショックが感じられた。しかし、ルノーの技術陣も頑張ったようで、今回試乗したモデルは、クラッチの不快な動きもなく、非常にスムーズだった。しかも、0→100km/hの加速は8秒台前半をキープ。スポーティなハイブリッドにコンパクトといえる。その魅力はワインディングで発揮した。
「ルーテシア」のドライビングモードはMy Sense/Sport/Ecoの3モード。My Senseは文字どおり、パワートレインとステアリングの性能をオーナーが自分で設定できるモード。ルノーのフルハイブリッドは、スタートから低速域はモーター、加速時や中速域になりエンジンが始動し、レスポンスと加速を向上させる。高速域では効率の高いエンジンが積極的に働き、加速時にはモーターがアシストする。中・高速域を多用するワインディングでは、ドグクラッチのスムーズな働きと、エンジン+モーターの力がキビキビした走りを可能にしてくれるのだ。トヨタのハイブリッドがあまり得意としなかった高速走行での低燃費を可能にしているのが特徴のひとつになる。
ちなみに、1.6Lエンジンは日産と三菱とのアライアンスエンジンだが、エンジンマッピング、ピストン、コネクティングロッド、クランクシャフトなどのパーツは、ルノーが新たに開発している。気になったのは、アクセル・オンの時にエンジンが回っていると、その音が若干、室内でも聞こえたこと。これは要改良点だ。
室内は素材の品質や造形の良さは、コンパクトカークラスの域を超えている。「エンジニアード」はさらにBOSEの9スピーカーも標準装備されている。座席はセミバケット形状。床面の両端はホールドを良くするためにヘリが高い。これがクルマを降りるときに太ももの裏を圧迫するのは、仕方のないことだが、気になった。
後席の着座位置はやや低め、ツマ先が前席下に入るので、足元の狭さは感じない。頭上のスペースも身長170cmクラスまで快適に居られる。背もたれは4対6で前倒できるが、床面はややナナメ。背もたれを起こすとシートベルトがはさまるのは改めてほしい。
結論として、ルノーのフルハイブリッドコンパクト2BOXは、外観から想像するよりも、走りの質が高く、ドライビングを楽しめるスポーツモデルだった。目立つことが嫌いな、一見、大人しい男性が、このクルマのハンドルを握って、ひょう変するのもアリだし、上品な女性が実はドライビング好きで、秘かにブッ飛ばす、という願望がある人に勧めたいおしゃれなコンパクトカーだ。
◆ 関連情報
https://www.renault.jp/car_lineup/lutecia/entracte/index.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博