なぜドコモのネットワークは品質低下したのか
石野氏:最近ちょっとまずいなと思ったのは、先日、電話で話した時、ドコモ回線を使っている僕の声が聞こえないと言われたこと。相手からの声はちゃんとクリアに聞こえていたので、これってもしかして、上りが詰まってるのかなと。
法林氏:使っている回線が相手と同じ会社だと音はきれい。au同士、ドコモ同士はきれいだけど。
石野氏:パケットが送れていない感じがするんですよ。上りの速度が出ていないんじゃないかと。VoLTEは一応、帯域保証というか品質保証をしているんですけど、いくら保証しても、その保証の幅より速度が出ていなければ、上りの速度は当然出なくなっちゃうので。
房野氏:VoLTEの品質保証というのは?
石野氏:音声をちゃんとやり取りできる保証。VoLTEはデータ通信でやり取りしてるんですけど、無線の中で「ここは音声通話用です」っていう部分をちゃんと分けている。
房野氏:例えば、データ通信はつながりにくくてもVoLTEはつながると。
石野氏:そうです。優先でつながるんですけど、ひょっとしたら上りの容量が足りないんだろうかっていう感じがした。ソフトバンクは上りをあえて強調して説明していて、ドコモもこれから上りをチューニングして最適化しますとて言っていたんですけど、今まで最適化されてなかったんかい! と。
房野氏:上りと下りを切り替えられる通信方式ってありませんでしたっけ。
石野氏:今は上りと下りで使う周波数が別々か、同じ周波数を時間で分けている感じです。TD-LTEはtime dividedなLTEで、細かく時間を切って上りと下りを分けて、同じ周波数でやり取りしている方式。一般的なFDD-LTEはfrequency dividedなLTEで、周波数を完全に分けている。
例えば「2.1GHz帯」といっても、FDD-LTEは基地局が送信する帯域が2.13GHzから2.15GHz、端末が送信する帯域が1.94GHzから1.96GHzみたいな感じで、完全に周波数を上りと下りで分けて使っている。
TD-LTEは説明が難しいんですが、今、この瞬間は僕の番で、次のこの瞬間は房野さんの番というのを、完全に時間で回線利用を区切っている感じですね。
房野氏:ものすごい速さで切り替えているんですね。
石野氏:切り替えてしている時点で、基本的には音声通話に使いづらいんですよ。
石川氏:逆にTD-LTEはデータ通信に強くて、需要に合わせて時間の分け方を変えたりもする。ということでデータ通信に強い。KDDIはUQコミュニケーションズがやっているWiMAX 2+、ソフトバンクはWireless City Planning(WCP)が持っている周波数でTD-LTEを提供しているので、そこでデータ通信がバンバン使われている感じがする。ドコモはTD-LTEでは3.5GHz帯、高い周波数でやっているので、あんまり活かせていないんじゃないかっていう気もする。
房野氏:ある程度、課題を把握しているのに、なぜ、ドコモの通信品質は改善されないのでしょうか。
法林氏:みんなそう思っているんだよね……今回のドコモの会見では、元々の設計の方針が、ちょっとまずかったのかなっていう感じはしましたね「なんちゃって5G」もそうだけど、KDDIとソフトバンクの方がたぶん、うまく準備できたんだろうと思います。例えば、従来のLTEの配分やキャリアアグリゲーション(複数の周波数を束ねることで通信速度を上げる技術)の組み合わせもうまく構成できていた。
石野氏:UQコミュニケーションズやWCPに相当するようなデータ通信専用の子会社がドコモにはなかったというか、ドコモはTD-LTEをあまりやっていなかった。UQコミュニケーションズのWiMAX 2+やWCPのAXGPが相当キャパシティを作っていて、都市部だとかなり密に基地局が打たれている。それがドコモにはないんですよね。都会のトラフィックを吸収しきれてないのは、結構そこも原因なのかなと思いました。
なぜそう思ったかというと、ソフトバンクは、データを分析してこのエリアでキャパが足りないとなったら、「じゃあ基地局をここに追加します」って言っていたんですよ。囲み取材の時に「そんなに簡単に基地局を置けるんですか?」と聞いたら「そんなに苦労してないですね」っていう回答だった。それって元々場所があるからなんですよ。ウィルコムやイー・アクセス、WCPが元々密に基地局を展開していたから、ちょっと追加するぐらいの工事なら簡単にできるんです。でも、ドコモは基地局の新設が大変だと、やたら強調していた。地権者がなかなか、設置にイエスと言ってくれないとか、既存の場所にはもう置けなくて……みたいに言う。都市部での場所確保から失敗している感があるというか、足りないんじゃないかなって思ったんです。それはもう、今さら何とかなるものじゃない。ドコモはチューニングで何とかしようとしてるんですけど、難しい感じがするんですよね。
ドコモが2023年8月に実施した説明会では、基地局のアンテナ角度の調整や出力調整、指向性の調整など、カバーエリアの微調整に取り組んでいると表明
石川氏:KDDIとソフトバンクは、TD-LTEやなんちゃって5Gで、とにかく5Gのエリアを広げてセルエッジを極力なくしていった。面展開を早くやった。一方ドコモは瞬速5Gだといって、サブ6GHz帯の5G基地局を打って、そこから展開しようとしているんだけど、どうしても点がいっぱいでセルエッジができちゃう状態になっている。また、衛星への干渉を防ぐために、基地局を打ちたくても打てない状況もあったりした。ネットワーク設計の考え方みたいなところでドコモは厳しいというか、「アンテナ調整しました」「角度を調整しました」レベルになっちゃうのかなぁと思った。
石野氏:5Gの設計の仕方自体は間違ってないというか、帯域幅が広い高い周波数でTD-LTE方式の電波を密に打っていけば、キャパシティが増える、それは間違ってないんですけど、UQコミュニケーションズは2007年に発足しているんですよ。その時から、こういうことをやっているわけですよ。ある意味、ドコモは5Gになってから、2020年からそういうことをやり始めているので、2、3年遅れというか、13年の積み重ねの差が今出てしまった。
石川氏:ドコモはいまだに3Gをやっている。逆にKDDIはとっくに3Gをやめている。しかも、KDDIにとって3Gは、導入した当初は良かったんだけど、4Gが前線になってくると周波数の使い方が逆だったりと、3Gで結構ハンデを背負っていたので、早めに3Gを停波して4Gに特化した。KDDIが早いタイミングで4Gに入れ替えたことはプラスに効いている感じがします。
房野氏:3Gに切り替えるタイミングでは、ドコモってあまり品質が良くなかったですよね。
法林氏:それぞれの世代に色々理由はある。auは2.5GのcdmaOneから3GはCDMA2000 1Xにしたので、基本的に互換性がある形で世代を進めることができた。でも、ソフトバンクとドコモはPDCからW-CDMA方式に切り替えた。これはまったく別の通信方式なので、基地局やアンテナはゼロから構築しなければならず、PDC方式とW-CDMA方式のデュアルモードは電池の消費が激しいため、やらなかった。たしか、PDC/W-CDMA方式のデュアルモード端末って、1機種しかなかったはず。
3Gから4Gの時は比較的早く取り組んだけれど、ドコモは3Gネットワークのエリアが広くてちゃんと使えていたので、「うちには3Gがあるから、4Gは順々にやります」みたいな感じだったのが、他社はサクッと切り替えて、できるだけ4G LTE展開できるように頑張りましょう、みたいな感じになった。特にKDDIはその傾向が強かった。ちょうどそのタイミングで、KDDIがソフトバンクに次いでiPhoneを取り扱うようになったので、加速がついた感がある。一方で当時、通信速度の広告表記の間違いがあって責められたこともあったけど。
どの会社も世代の切り換えは結構大変なんですよ。テスト環境で特性をある程度つかめてると思うんですけど、現実のフィールドに出してみると、うまく動かないことがあって、みんな悩むところ。ドコモは、ちょっと予想と違った感がある。LTEのキャリアアグリゲーションの組み合わせとか並べ替えみたいなことをやっているのは、まさにそこなのかなという感じで、4Gも調整をしないと5Gがうまく流れていかない。ドコモは、5Gをスポット的に扱えれば、高速通信の補助になるだろうっていう考え方だった感じですよね。ソフトバンクとKDDIは、とりあえずさっさと5Gで流れるようにしましょうっていう感じで、5G端末も比較的リーズナブルなものを揃えた。そこの戦略の違いだと思う。