■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、ドコモのネットワーク説明会は納得できる内容だったのか? ドコモが抱える課題について会議します。
つながらない…と不満続出のドコモ。どうなってるの?
房野氏:2023年に入ってドコモのネットワーク品質に不満が高まっていましたが、10月10日に再び、改善に向けた取り組みについてドコモが説明会を開催しました。渋谷、新宿、池袋、新橋の4エリアの通信速度(スループット)改善を報告するとともに、300億円の予算を前倒しして投資し、全国2000か所と鉄道動線を集中的に対策するとしています。
法林氏:石川君、石野君は「2、3年前のネットワーク」とかいって、すごく厳しい記事を書いていたね。
石野氏:2、3年前に他社が言っていたことを、そのまま言っているような感じでしたからね。
石川氏:今さら言ってどうするの? ってところじゃないですか。他社はもっと前から気がついていた。
石野氏:今回のドコモの説明会は、9月に説明会をしたソフトバンクを意識して構成を近づけている印象がありました。ユーザーの声を聞いていますよ、対策してますよ、上り通信を強化しますよ、みたいな感じで、ソフトバンクにアンサーを送ったような構成になっていたんですが、アンサーを送りきれてないよっていう印象でした。
2023年10月に開催された「ドコモ通信品質改善の取り組みについて」の説明会。登壇し、状況を説明した、株式会社NTTドコモ 常務執行役員 ネットワーク本部長 小林宏氏
ソフトバンクが同社の説明会で2023年9月に公開した資料から。独自の評価指標で通信品質を評価。ユーザーの体感が快適とされる青い部分はソフトバンクが最多。A社(KDDI)とB社(楽天モバイル)が続き、B社(NTTドコモ)は最下位に沈んだ
石川氏:そうだよね。だから「スループットが出てます」アピールは違うよなと思った。
法林氏:その件は質疑応答で聞きました。CDMAから続くモバイルネットワークのデータの流し方は、電波状態の良い人から順番に高速で送っていくものなので、1人だけ速くても意味ない。「スループットは意味なくないですか?」と思って質問したんだけど、ドコモとしてはスループットの方がわかりやすいだろうという判断だったそうです。
房野氏:ソフトバンクはPing値、いわゆる応答速度、遅延、ユーザーの体感を重視した説明になっていましたね。一方、スループットというのは……
石野氏:データの転送速度の実測値です。
法林氏:MVNOがSIMカードを発行し始めた頃に、「この会社は速いけど、この会社は遅い」みたいな表現がされたんですけど、スループットって、本当にその瞬間しか測れないので、あまり意味がないんですよ。全然とは言わないけど、あまり価値はない。いろんな時間帯で何十か所と測らないと、データとしての信憑性は裏付けられない。
石野氏:アプリストアで数百MBのアプリをダウンロードするというような時には、確かにスループットで顕著に差が出るんですけど、たとえば、『@DIME』をスマートフォンの画面に表示する、みたいな時だと100Mbps出ていようが1Mbpsだろうが大して変わらないというか、どちらかというと1Mbpsのスループットでも、遅延の少ないネットワーク環境の方が素早くバッと表示される。スループットと遅延のどちらが重要ですか? っていうことになると、どっちも重要ではあるんですが、例えば最近はスマホで動画を観ることが多いですよね。1Mbpsだと動画は画質が落ちちゃいますし、20Mbpsぐらい出ないと4K動画なんかは表示できなかったりします。だからスループットが重要なことに異論はないんですが、バランスというか、スループットだけ見せられてもなぁっていうのは感じます。
石川氏:考え方がそもそも違うと思う。ドコモは「瞬速5G」といって、5Gとしてのスペックを出していくためのネットワークを作っている。だからスループット重視の考え方なのかなという気がしたし、一方でKDDIやソフトバンクは4G用の周波数を使った「なんちゃって5G」で、とりあえず快適に使えればいいじゃんという考え方。だって、みんながみんな外で4K動画を見ているわけじゃない。むしろYouTubeのサムネイルをクリックした瞬間にすぐ再生が始まるとか、記事のリンクをクリックした時にすぐ表示してくれる方が快適。そこの体感、反応速度の方が重要だとソフトバンクは言っている。その考え方の違いが出たのかなと思います。
石野氏:ドコモも、スループットが出ているところは、結果として遅延も少ないというようなことは言っていたので、確かにそれも一理あるというか。
房野氏:auとソフトバンクは、Ping値で明らかにドコモや楽天モバイルに比べてアドバンテージがあるんですか?
石野氏:そういうわけでもないんですよ。
法林氏:ソフトバンクが説明会で見せたテストの結果は、完全に実態を表していたわけではないけれど、Pingに近いレスポンスを測っていた。それで見ると、ドコモのネットワークは、やっぱりちょっと遅かった。反応があまり良くない感じが出ていた。
房野氏:Pingを上げ下げする要素にはどういうものがあるのでしょうか。
法林氏:どう言えばいいかな……Pingというのは、例えば、石野君が僕に話しかけた時、石野君が今何を言ったのか、僕が考えて、反芻して、返すまでの時間を測る、みたいな感じです。ネットワーク側とその途中の経路のデータの流れ方や反応速度を測るようなもの。人体的に表すと反射神経ですね。
石野氏:本当に基礎の基礎になっちゃうんですけど、携帯電話のデータ通信、パケット通信は、データを小包に分割して運んでいる。無線なので当然エラーも発生します。そうすると再送要求がかかって、そこからまた同じデータを送って、最後に復号して1つのデータになるというような仕組みなので、無線の状態が悪いと、どんどん品質が下がってしまう。再送要求がどんどん出てきちゃうと、ネットワークが詰まったりしちゃいますし。
石川氏:使っている周波数が複数あるうち、プラチナバンドにアクセスが集中して混雑して反応速度が遅くなるとか、基地局からの電波が届く一番端、いわゆるセルエッジ(セル端)では電波がフラフラしてる状態で、うまくデータが流れないと結果として反応速度が遅くなる。
房野氏:流通がうまくいってないみたいな感じですね。