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第2次政権は6連勝!サッカー日本代表・森保一監督のマネージメント力と成功を収める5つの条件

2023.11.15

「強烈なリーダーシップ」や「カリスマ性」とは無縁の森保監督

堂安律(右から2番目)ら選手と気さくに会話する森保一監督(右端)=筆者撮影

 ドイツ・スペインの両強豪国を撃破し、日本中が湧いた2022年カタールワールドカップ(W杯)から間もなく1年が経過する。日本代表の森保一監督が続投したのはご存じの通りだが、今年3月に発足した第2次体制のチームは「史上最強」の呼び声も高まるほどの快進撃を見せている。

 新体制初陣となった3月シリーズこそ、ウルグアイ(東京)とコロンビア(大阪)に1分1敗と苦しいスタートを余儀なくされたが、6月のエルサルバドル戦(豊田)から10月のチュニジア戦(神戸)まで6連勝。9月にはドイツ・トルコという欧州の強豪に4-1、4-2と圧勝し、最新のFIFAランキングも18位まで上昇。新キャプテン・遠藤航(リバプール)が掲げた「2026年北中米W杯優勝」という目標もあながち夢物語ではないような気もしてくるほどだ。

 そこで注目されるのが森保監督のマネージメント力だ。ちょうど30年前の93年10月28日、94年アメリカW杯アジア最終予選・イラク戦で「ドーハの悲劇」を実体験した森保監督は当時から地味でコツコツ型のボランチだった。華々しいプレートは無縁で、ボールをほとんど触らず、相手のパスコースを切るような目立たない仕事を得意としていた。そういった生真面目な人材が引退後、指導者に転身するのは想定の範囲内だったが、「強烈なリーダーシップ」や「カリスマ性」とは無縁の人であるがゆえに、代表監督になること自体がサプライズだった。そういう人物がここまで手腕を発揮するとはやはり驚きに値すると言っていいだろう。

 森保監督という指揮官のマネージメント力を改めて分析すると、成功への5条件が見えてくる。それを以下に説明したい。

マネージメント力を分析して見えた「成功への5条件」

遠藤航ら選手のプレーを遠くから見つめるのが森保監督の流儀だ(筆者撮影)

1、選手・関係者へのリスペクトを忘れない

 森保監督は「リスペクト」が代名詞と言っていいほど腰が低い。我々報道陣にはわざわざ向こうから近づいてきて深々と頭を下げるのは日常茶飯事。10月シリーズの際には、足の負傷で松葉杖をついていた筆者のところまでやってきて「お見舞い申し上げます」と言ってくれたほど。30年近く代表取材をしているが、そんな指揮官は森保監督ただ1人と言ってもいいだろう。

 選手に対しても同様だ。カタールW杯の代表キャプテン・吉田麻也(LAギャラクシー)が「森保さんはつねに僕ら選手に敬意を払ってくれる。そういう人だからこちらも神輿を担ぎたくなる」と語っていたことがあったが、彼らの所属先での立場や環境、プレーしているポジションやチーム戦術に最大限配慮しながら代表チーム強化を進めているのだ。

 10月シリーズの際も、久保建英(レアル・ソシエダ)と森保監督がカナダ戦(新潟)のハーフタイムにベンチで議論している映像がクローズアップされた。これについて指揮官は「ソシエダでゴールキックやビルドアップの部分でどういうことをやっているのかを聞きました」と会見の場で説明。久保も「代表が強くなるために、監督もいろんな選手に聞いて、融合していると思うので、もたらせるものがあるなら喜んで伝えますよ」と前向きにコメントしていた。

 外国人監督だったら、各選手の所属先の戦い方に関係なく、自分の方向性を前面に押し出すだろうが、森保監督は「自身が学ぶ立場にいる」という強い自覚がある。「自分は欧州でのプレー経験はおろか、采配を振るったこともないのだから、実際に最高峰リーグで戦っている選手の経験を日本サッカーに還元することが重要」と割り切っている。その清々しさが成功の大きな要因になっていると言えるだろう。

攻撃練習は名波浩コーチらに全面的に任せている(筆者撮影)

2、スタッフを信じて任せる力

 代表の練習時には、実際のトレーニングを名波浩コーチや前田遼一コーチらが進め、森保監督自身は遠くから見ているという光景が目につく。それは横内昭展コーチ(現磐田監督)らがいた第1次政権時代も同様。指揮官は全体を俯瞰して見極め、選手起用やフォーメーションを決めるスタイルを採っていた。

「名波コーチは非常にアンテナが高く広くて、感度がいいですね。特に攻撃面は彼を中心に練習を進めてもらっていますが、3月に出た『ボール保持にこだわりすぎる』という課題が6月以降に修正され、よりゴールに結びつけられるようになっている。前田コーチもまだ経験は少ないですけど、前線で起点になる仕事、得点につながるディテールを落とし込んでくれている。2人の効果が徐々に出てきています」と森保監督は新たなコーチを含め、スタッフに全幅の信頼を寄せているのだ。

 いいリーダーというのは全ての仕事を1人で抱え込むのではなく、スタッフの能力を見ながら役割を与え、それを遂行させ、最終的に結果につなげられる人物を指す。特に代表チームのように10数人のスタッフ、20~30人の選手がいる大所帯では、確実な分業体制を構築し、効率的に物事を進めないと、勝利にはつながらない。そのあたりのマネージメント力に森保監督は長けた指導者と言っていい。

3、聞く耳を持つが、必ず聞き入れるとは限らない

 代表監督というのは判断の連続だ。選手選考やスタメン決定、フォーメーション、選手交代など迅速かつ正確な判断をしていかないと試合には勝てない。「決断力」に秀でていることが重要なポイントなのだ。

 1つ1つの判断を下す際、森保監督はスタッフの考えを聞くという。吉田や遠藤らキャプテンにも意見を求めることもある。「森保さんは本当に僕らの話をよく聞いてくれる人」と吉田も語っていたが、カタールW杯直前にも2人はディスカッションを重ねていたようだ。そういう意味で、森保監督は「選手ファースト」「スタッフファースト」の指導者だと見ていいだろう。

 しかしながら、その意見を全て聞き入れるとは限らない。「僕は聞く耳は持っているかもしれませんけど、最終判断を下すのは自分。全てを聞き入れるわけではありません」と森保監督自身も語っていたことがあったが、カタールW杯で大迫勇也(神戸)を外したことなどは象徴的な事例ではないか。

 吉田やベテランにとっては長く共闘してきた大迫がいれば安心感も高まるし、いざという時には最前線で体を張って起点を作るなどの仕事をしてくれる。が、森保監督のハイプレス戦術の中に大迫の使いどころはなかった。だから外したということなのだろう。人情や義理を重んじれば外したくなかったはずだが、代表監督は非情にならなければいけない仕事。それは過去の岡田武史監督(JFA副会長)らも言っていたことだ。

 実は結構、ドライでビジネスライクな一面を持つのが森保一という人物。そこは見逃せない点と言っていい。

選手に指示を送る森保監督(筆者撮影)

4、メンタル的にブレない

「自分の性格? 淡々、コツコツとって感じ。喜怒哀楽の波もあまりないです。国歌斉唱の時なんかは感情が動きますけど、普段は感情の波が穏やかですね。

 JFA TVの『Team Cam』(日本代表公式ユーチューブ)やサンフレッチェ広島時代の映像の中にはちょっと興奮しているものもありますけど、多分、1000分の1とか1万分の1くらいの感じじゃないですか(笑)。試合前とかは声のトーンを上げて指示を出していることもありますけど、感情的にはブレていない。そういう人間です」

 森保一監督は自分のキャラクターについてこう語っていたが、それも代表指揮官として重要な要素ではないか。

 リーダーが1つ1つの勝ち負けにこだわりすぎて感情的になったり、選手に怒鳴ったりしていたら、チームはいい方向に進まない。どんな状況でもつねに冷静に物事を見据える力がなければ、代表監督という重責は務まらないのだ。

 そんな森保監督も崖っぷちに立たされたことがあった。最たるものが2021年10月のカタールW杯アジア最終予選・サウジアラビア戦(ジェッダ)で敗れ、最終予選序盤3戦2敗というまさかの展開に陥った時だ。ジェッダから日本に戻る機内で吉田と川島永嗣の両ベテランが深刻そうに話し込むなど、チームは危機的な状況に瀕したが、森保監督は無表情で感情を表に出さなかった。

 帰国後の練習も変わった様子はなく、選手たちを鋭く見つめていた。そこで柴崎岳(鹿島)と鎌田大地(ラツィオ)を外して守田英正(スポルティング・リスボン)と田中碧(デュッセルドルフ)抜擢を決意したわけだが、ブレずに状況を客観視し、最善策を模索した結果、次のオーストラリア戦(埼玉)で勝ち点3を手にできた。

 人間は逆境に立たされた時に真の姿が分かると言われるが、森保監督は案外、度胸が座っている。それも「ドーハの悲劇」などの経験から来るものなのかもしれない。

記者会見の時は鋭い眼光でメディアを見つめる時もある(筆者撮影)

5、三度の飯よりサッカーが好き

 サッカー代表監督として一番重要なのが、サッカーと向き合うことに喜びを感じられるかどうかだ。

 代表監督ともなれば、外野からの雑音は凄まじい。「勝てば官軍・負ければ賊軍」という言葉もあるように、結果が出なければ、どういう批判にさらされるか分からない。98年フランスW杯の頃は岡田武史監督の自宅に脅迫状が届き、警察が巡回するような騒ぎになったほど。それくらいのリスクを背負って仕事をしなければならないのだから、本当に好きでなければ進められない。

 そういう意味で、森保監督は最適な人材と言えるだろう。

 というのも、森保監督と長い時間話していると、結局、サッカーの話になってしまう。ユーチューバー「LISEM」になった息子たちのことや趣味などを聞いても、すぐにサッカーの話題に戻ってしまうのだ。

「私はサッカーを見ることは全く負担に感じません」とも言い切る指揮官は毎月100試合以上は確実にチェックしている。2021年5月段階でも「現場と映像合計で1月が100試合、2月は143試合、3月は106試合、4月は128試合。5月は半月で75試合に上った」と笑っていたが、海外組の総数が増えた今はもっと多くなっているはずだ。

 そこまでサッカーに執着しているからこそ、現場に立ち続けられる。正直、50代後半になれば、猛暑や極寒の日にピッチに立ち続けるだけでもキツクなるはずだが、森保監督の向上心は衰えることはないという。

 この5条件は一般のビジネスパーソンにも通じる部分ではないか。マネージメント力のあるリーダーになりたいと思うなら、森保監督から学ぶべきものは少なくない。ぜひとも参考にしてほしいものである。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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