記者会見の成否はここでわかれる
記者会見で企業は釈明を試みます。例えばビッグモーターであれば、社長は「天地神明に誓って知りませんでした」と言い、不正を行った社員を刑事告訴する、とまで言いました。前薗氏が解説します。
「ようするに彼らは『すべて現場の社員がやったこと』というストーリーで記者会見に臨んだのでしょう。ただし、そうは問屋が卸しませんでした」
お客さんから預かった車を傷つけるなど、ほぼ同じ手口の犯罪的な行為が全国で行われていたのに「現場が勝手にやった」と言われて誰が納得するでしょうか。
「当然、聞いている側には『それ嘘じゃない?』とモヤモヤしたものが残ります。これが最悪の展開なのです。モヤモヤが残れば、メディアはさらにニュースにできます。『あの件の真相は!?』とやれば視聴率がとれ、雑誌が売れるからです。その結果『あの記者会見自体が燃料だった』となるのです」(前薗氏)
前薗氏は「『論調調査』も甘かった」と言います。
「記者会見は、事前に論調を調査して皆が知りたいであろう項目の90%以上は網羅し、回答を準備して臨むべきなのです。しかし同社の記者会見を見ていると想定ができていないことが多く、だからアドリブで、(ゴルフボールで車を傷つけ修理代金を水増しした件について)『許せません。ゴルフを愛する人への冒涜です』といった、さらなるネタ発言も飛び出しました」(前薗氏)
では逆に、いい記者会見は?
「例えば2022年7月に起きたKDDIの大規模通信障害についての社長記者会見です。起きた理由も対処も明示することで、利用者の『また起きるんじゃ?』という不安を解消しています。社長が説明を現場に任せず、自分自身の言葉で、しかも誰にでもわかりやすく説明したことも大きく、この件は急速に『鎮火』に向かいました。するとマスコミも、これ以上追及すべき理由を失ってしまうのです」(前薗氏)
嘘つきが損をする時代
ではなぜビッグモーターは、モヤモヤを残すダメな記者会見しかできなかったのでしょうか?
ここで筆者と前薗氏の意見が一致しました。「ビッグモーターは『クロ』だから、疑問や不安の解消のしようがなかった」と推測できるのです。
「この推測が正しければ、記者会見の段階では、もうビッグモーターに逃げ道はありません。彼らの被害が最小限で済む道筋があったとしたら、早い段階で厳正に対処し、創業家が責任を取って経営から身を引くことだったのでしょう」(前薗氏)
そしてこれは、大げさでなく、「新たな時代の訪れ」を意味しています。
不正が隠せる時代ではなくなったのです。不正は内部告発を招きます。これがネットで炎上すれば、不正を行った企業は取引先や株主や金融機関からのプレッシャーにさらされ、記者会見をせざるを得なくなって、嘘で塗り固めても袋叩きに合うのです。前薗氏が話します。
「企業の経営幹部や広報担当は『今や隠し事は隠せない』と考えるべきでしょう。そして『この業界ではこれが当たり前だから』などと見逃してきた内部の不正やハラスメントには厳重に対処すべきです。結局は、それが最高の炎上対策なのです」(前薗氏)
「炎上」は、ネットのなかった時代なら闇に葬られていた事態を明らかにし、“正直者が得をする”というより“嘘つきが損をする”ようにしたのだ。
今や企業の最も大きなリスクと言われる「炎上」。もしかしたらこれによってクリーンな社会が訪れるのかもしれない。そしてクリーンになれなかった企業が、今後、第2、第3のビッグモーターとなっていくことは想像に難くない。
取材・文/夏目幸明