NTTは、太陽光エネルギーを利用する半導体光触媒と二酸化炭素(CO2)を還元する金属触媒を電極として組み合わせた人工光合成デバイスを作製し、世界最長の350時間連続炭素固定を実現したと発表した。CO2変換反応による累積炭素固定量は420g/m2に達し、これは樹木(スギ)が年間で固定する単位面積当たりの炭素量を上回る量に相当する。
樹木が年間で固定する炭素量を上回る炭素固定量を350時間連続動作で達成
気候変動を抑制するため、世界中で脱炭素に向けた取組が加速しているなか、NTTグループでは、2040年にグループ内でのカーボンニュートラルを実現するため、再生可能エネルギーの導入やIOWNによる消費電力の削減など、さまざまな温室効果ガス排出量削減の取り組みを進めている(図1a)。
これらに加え、すでに大気中に排出されたもしくは排出されるCO2を一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)などに変換して固定化する技術として、半導体や触媒などの無機物で構成され、植物の光合成を超えるCO2変換性能を実現できる人工光合成の研究開発を行なっている(図1b)。
人工光合成はこれまでに世界中でさまざまな研究が進められており、特に高いCO2変換効率を実現できる触媒に関する検討は盛んだ。しかし、その一方で、連続したCO2変換の試験時間は数時間から数十時間レベルに留まっており、長時間化に向けた劣化抑制の技術確立が課題となっている。
↑図1. NTTが掲げるカーボンニュートラルと人工光合成の研究開発
人工光合成は、図2に示されるように、半導体光触媒を用いた酸化電極と金属触媒を用いた還元電極から構成される。実用化に向けての具体的な課題として、腐食などによる劣化を抑制し、長時間の反応に耐えうる長寿命な電極設計が求められている。
また、人工光合成によるCO2変換は、水溶液中の溶存CO2をCOやHCOOHへ還元する手法が広く用いられているが、水溶液中に溶解できるCO2の量には限りがあり、副反応が起こりやすくなる。このため、CO2を選択的に変換する電極構造やデバイス設計が求められている。
そこで、NTTでは、長時間連続して気相中のCO2をより効率的に変換可能な人工光合成の実現をめざし、光をエネルギーとして利用するための長寿命な半導体光触媒電極と、気相のCO2を高効率に変換するために電解質膜と一体化した繊維状の金属触媒電極により構成した人工光合成デバイスを設計した。
なお、今回の技術のポイントは、半導体光触媒電極の劣化反応抑制技術と気相CO2の変換技術の2点となる。半導体光触媒電極の劣化反応抑制技術においては、半導体光触媒として用いている窒化ガリウム(GaN)系電極は、GaN表面と水溶液の界面で生じる劣化反応の抑制が課題だったことから、GaN表面の凹凸をより滑らかにし、光を十分に透過する厚さ2nmの均一な酸化ニッケル(NiO)薄膜を保護層として形成することでGaNと水溶液の接触を防ぎ(図2a)、電極の劣化を大幅に抑制することに成功した。
一方、気相CO2の変換技術については、従来の水溶液中に溶存しているCO2を変換する金属電極は板状の構造が主流だったが、今回、気相のCO2を変換するために、CO2拡散性の高い繊維状金属とCO2変換反応に必要なプロトン(H+)を反応場に供給する役割を持つ電解質膜を一体化した電極構造を考案した(図2b、左)。これにより水溶液中に電極を浸漬させることなくCO2変換反応に必要なプロトン(H+)を反応場に供給できるようになり、気相のCO2を直接変換することを可能にした。これらの電極構造の工夫により、従来に比べ10倍以上のCO2変換効率を実現した。
上述した人工光合成デバイスに疑似太陽光を照射し、気相のCO2変換試験を行なった結果、350時間連続してCO2がCOやHCOOHに変換されたことを確認した。生成したCOやHCOOHから算出した単位面積当たりの累積炭素固定量は420g/m2に達し、半導体光触媒を用いた人工光合成において世界最長の350時間連続動作を実現した。この検証による炭素固定量は、樹木(スギ)の木1本が1m2当たり約1年間で固定するCO2を上回る量に相当する。
今後の展開としては、より高性能な人工光合成反応を実現するために、電極での反応の更なる高効率化、電極の長寿命化およびこれらの両立をめざす。さらに、実験室環境での検討だけではなく屋外での試験を通じて、太陽光エネルギーを用いたCO2を減らす技術のひとつとして確立することで、気候変動の抑制に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献するとしている。
構成/立原尚子