6歳から藤井を見守り続ける師匠。藤井に2つ目の黒星をつけた棋士。「八冠目」である王座を明け渡した元タイトル棋士。3人が間近で見てきた〝アスリート〟としての成長を心・技・体の視点からひも解く。
技
持ち前の終盤力に加わった「序・中盤力」は深い研究の賜物
名人戦第1局で107分の長考の末、指した一手。「棋士にとっても32手先は〝無限の未来〟。これを正確に読み切る力には脱帽します」(三枚堂七段)
対局ごとに弱点をつぶす。その成長スピードは異次元
鋭い攻め将棋で藤井にプロ2度目の黒星をつけた三枚堂達也七段。1度は勝利した若手棋士も「今の藤井さんは弱点が見当たらない」と語る。藤井がプロになって採用したAI研究によって進化した将棋界全体と藤井の成長を比べても、そのスピードは異常だという。
「藤井さんがデビュー当時からさらに強くなっているのは確実なんですけど、そもそも将棋界自体、コンピューター将棋ソフトと棋士との共同研究によって全体のレベルがものすごく上がっています。自分自身が5年前の自分と戦えばかなりの勝率を上げることができると思うのですが、現在の棋士としての自分の立ち位置を見るとそんなに変わっていない。そんな中で藤井さんは初タイトルを取った2020年からレーティング(※2)でさらに100点伸ばして2番手以降との差を広げています」
その〝差〟はどこでついているのだろうか。こう続ける。
「藤井さんはデビュー当時から終盤の切れ味はもちろんのこと、序中盤の完成度も高く、これまでの若手棋士とは一線を画してきました。そんな藤井さんの弱点をみんなが考えるようになり『対振り飛車や横歩取りにつけ込む隙があるんじゃないだろうか』と言われていたこともありましたが、それも今ではまったく言われなくなった。つまりは弱点と言われていた部分を克服し続けているんです」
日を重ねるごとに、無敵に近づいている藤井の成長をプロ棋士ならではの対局の視点から分析する。
「藤井さんの研究量が多いことは確かなのですが、ほかの棋士100人以上がそれぞれの研究を進めているので、藤井さん一人では研究しきれない部分もあります。また藤井さんの序盤は少しずつ変化してはいるのですが、基本は自分が最善手と思っている手を指し続けるスタンスです。なので、藤井さんが序盤から変化することはほとんどない。逆に言うと、過去に藤井さんが指した実戦を研究すればそれなりに作戦が立てやすいタイプでもある。それでも藤井さんは対戦相手との研究勝負を恐れずに指します。仮に相手が研究済みで、藤井さんにとっては初見の局面だとしても、実戦の最中に考えて柔軟に対応できる力がとても高い」
さらに藤井が異次元である理由に〝読みの深さ〟を挙げる。
「名人戦の第1局で挑戦者の藤井さんが50手目に△3五歩とした手があるのですが、この手の時点で30手以上先の〈82手目の△9八竜〉の局面まで予想していたという話には驚きました。実戦の中盤でここまで先を読めていたという話は正直聞いたことがない。読みの深さと正確性は人間業とは思えないレベルに到達していると感じます。序盤研究の記憶力と整理力もすごいのですが、盤面を正確に頭の中で映し出す、読みの能力も鍛え上げられているのでしょう」
将棋界全体以上に藤井さんだけがレベルアップしている
三枚堂達也七段
1993年、千葉県浦安市生まれ。内藤國雄九段門下。13年10月四段、19年七段昇格。2017年度の第2回上州YAMADAチャレンジ杯で棋戦初優勝。
取材・文/加藤久康 写真提供/日本将棋連盟
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