ペットとの生活って、体力が要る。犬の場合は毎日の散歩のための外出が欠かせないし、猫のお世話だって家の中で一緒に遊んだり、設置したトイレのお世話や清掃などで、意外と重労働。
彼らとの共生は体力勝負な部分もあるわけだが、それだけに飼い主も年齢を重ねてしまうと、残念ながら体が不自由になって今までのような飼い方が難しくなったり、場合によってはペットとの生活が難しくなり、施設に入所する必要性も生じてくる。
これは超高齢化社会の日本における、宿命のようなものだ。
人は必ず老いるし、そうなるとペットとの当たり前の生活を継続することもままならなくなる。
そういった飼い主さん向けに、新潟県には法律家などの専門職の手助けを前提とした、ペットの今後についてのセーフティネット構築に取り組んでいる団体がある。
それが今回紹介する一般社団法人「飼い主サポート新潟」だ。
取り組んでいるペットと高齢に差し掛かった飼い主さんのための包括的なサポート内容について、同団体代表の三浦真美さんにお話を伺うことができたので、現在ペットと暮らしている方。あるいは高齢のご両親がペットと暮らしているという方には、ぜひご覧いただきたい。
「自分の老後とペットが心配だから、安心できる団体を立ち上げた!」高齢の飼い主さんとペットのためのサポート団体が発足した経緯…
松本 私は以前より、高齢の飼い主さんが長年一緒に暮らしてきたペットの看取り問題に直面する事態に対しての打開策を講じるNPO法人さまの取材などしてきました。
団体によってその活動内容は異なるものの、いずれの団体も思いは一つで、ペットと飼い主さんができるだけ長い間一緒に暮らせるように取り計らう姿勢を見せていたのが印象的です。
まずはじめに、「飼い主サポート新潟」が発足した経緯について、教えてください?
三浦さん 「飼い主サポート新潟」(以下、飼いサポ)の前に、2015年4月に法人格のない市民活動グループ「どうぶつがかり」を立ち上げました。
きっかけは、同居していた義母が飼い犬・猫の世話ができなくなったことです。例えば、食べさせてはいけない食べ物をやってしまう、散歩はしなくていいと言っているのにさせて自分も転んで逃がしてしまうなど、以前は飼い方の本まで買ってきたような聡明な人がどんどんお世話をできなくなるのを目の当たりにしました。
その頃、ちょうど仕事で2030年問題(独居や夫婦の世帯率など)を調べており、一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」から、飼い主比率で50代以上が多いこと、犬猫の寿命が延びている数字は知っていたので、この先大変なことになると思いました。
私も子どもがおらず、自分と主人に何かあったときにペットをサポートしてもらう仕組みがないかと探していましたが、当時は見当たらず、自分で立ち上げることにしました。
「どうぶつがかり」は、65歳以上はペットシッター料金を安価にして、入院やリハビリなどの時期を何とか乗り切っていただく、または、飼いきれなくなってきても搬送やペット用品の買い物などを手伝うことで、できる限り一緒に暮らせるようにサポートすることを目的にしています。飼い主さんとのお付き合いはほとんどが長期化し、いよいよペットを飼いきれない様子が見えてくると、次の飼い主さがしなどのサポートも手伝っています。
このような活動背景から、どうぶつがかりは行政(新潟市動物愛護センター)や動物病院のみならず、地域包括センター、社会福祉協議会、病院の相談員など、飼い主をサポートする介護福祉医療とも連携を図るようになりました。
例えば、入院中の飼い主さんが自宅に戻る際にペットとどう暮らしていくか、関係者のカンファレンスに同席することもあります。
ところが、どうにもならない壁が出てきまして、それが「法律の壁」でした。ペットは日本の法律ですと「モノ扱い」であり、飼い主の財産に属します。飼い主が元気なうちはよいのですが、突然死したり、判断ができない状態(認知症や病気の進行)になったりして、ペットの飼育が適切にできなくなっても、飼い主の財産ですから私たちが勝手に助けられないのです。
飼い主さんから頼まれて長年シッターをしていようが、ペットがネグレクトにあっていようが、たった1匹で家に残されていようが、“口約束では助けられない”。
ヘタをすれば、飼い主死亡後に勝手に家に入れば不法侵入、ペットがかわいそうと連れ出せば窃盗です。
また、ペットは相続の対象になりますが、拒否することもできます。私たちが係わった案件ではないですが、飼い主さんの金品は相続して、ペットは安楽死させたという話も聞いています。
最悪の事態を迎える前にできること……それが遺言書作成などであり、「万が一の時に、ペットをどうするか」を元気なときに考えていただく方法です。
大抵の人は「死期が近くなったらやればいい」と考えています。しかし、私は死ぬ間際の飼い主さんをたくさん見てきましたが、死期が近い人は、ペットも含めた終活などできる余裕がありません。
たくさんのチューブをつながれて虫の息ですから「財産を〇〇さんにあげるから、〇〇さんペットを頼むね」が言えるかどうか。病院に入院中でも正式な遺言書をつくることはできますが、もうペンも持てず、サインをするのも精一杯です。
そんな遺言書では、指名された方が本当に飼える状況か確認もできないし、飼えなければ里親さがしが必要になるし、見つけた里親も飼い主さんが本当に託したい人格や環境かは、遺された人は判断がつきません。
ペットの情報も動物病院のカルテくらいで、1日のうちにどんな過ごし方をしているか、何が好きか、嫌いかなど、ペットのQOLまでは遺言書に盛り込めない。次の人に託せず、もう丸投げですよね。
他にも、高齢の飼い主はペットをダシに変な人に引っかかりやすいんです(実際にいました…)。このような背景から、法律家との連携が必須と考え、何かあると相談していた特定行政書士の秋山貴子さんと、秋山さんより紹介していただいた弁護士の平哲也先生(猫派・犬も大好き)にも当会の会員と特別アドバイザーになっていただき、「飼いサポ」を2022年5月に設立したのです。
設立には、特定社会保険労務士の両角公登先生、「どうぶつがかり」のスタッフから「飼いサポ」の意義に賛同してくれた浅野柳美さん、上田めいさん(飼い主サポの動物取扱責任者)が加わってくださいました。