■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はPixel 8シリーズについ会議します。
Pixel 8はiPhoneからユーザーを奪い取れる?
房野氏:Googleから「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」が発売されました。今年もAI機能が売りになっていますね。
石野氏:Pixelシリーズは、ほかのAndroidメーカーから、かなりのユーザーを獲得していますね。
石川氏:Pixelの国内での取扱いが3キャリア体制になって、〝消しゴムマジック〟といったAI機能が注目されている。本来であれば、iPhoneのユーザーを獲得していくべきなんですが、AndroidスマートフォンのユーザーがどんどんPixelに移行して、Android陣営での内戦状態になっている。
房野氏:iPhoneユーザーがPixelへ移行しない障壁というか、理由は何が考えられますか。
石川氏:iPhoneユーザーの多くは、iPhoneしか見ていない。Androidスマートフォンにどんな新製品が出ても、「次のiPhoneはどうなの」という話題にしかならない。
法林氏:アップル信者の石川君はそういうけど(笑)、今年のPixel 8は、去年以上に風向きが変わってきていると僕は思う。ただ、ほかの媒体で記事にしたけれど、iPhoneを使っている人に質問しても、自分がどのモデルを使っているかを意識してない人が結構いる。フィーチャーフォン時代に「ノンポリ層」みたいな言われ方をしていた関心の低い人たちは、自分のスマートフォンがどのiPhoneなのかなんて気にしていないし、iPhoneが壊れたりしない限り、買い替えようとしない。
房野氏:買い替えないのは、価格面がネックになっているんですか?
法林氏:価格が高いのもそうだし、買い替えてもどこが変わったのかがわからないから。だからこそ、新しさを実感しやすいPixelに目が向いているのは事実。僕の知り合いの中では、去年よりも今年のほうが、iPhoneからPixelに買い替えている人が多くなっています。
そもそも、15万円とか20万円も支払う商品として、新型iPhoneに進化している要素があるのか。もちろん、細かい進化はあるけれど、使い勝手が大幅に変わることはない。だったら、写真を撮ったら写った人を消せて、背景がクリアになる……そんなわかりやすい機能を持った、Pixelの方がいいよねって話。GoogleはCMでもうまいことアピールできている。Pixel 6以降から、一般ユーザーの受け止め方は変わってきているし、今年はさらに変わったと思う。
石野氏:ポイントプレゼントなど、本来はiPhoneからユーザーを奪い取るための施策をPixel陣営がしたら、その爆風があまりに強烈すぎて、先にほかのAndroidスマートフォンメーカーがバタバタ倒れていっている、そんな感じですよね。
法林氏:そうだね。もう1つ言えるのは、ほかのAndroidスマートフォンのメーカーが、戦う相手をPixelだと勘違いしている節がある。戦うべきはiPhoneでしょう。その取り組み方を変えないといけないのに、市場の動きを見ると、明らかにPixel人気が盛り上がっています。
石川氏:シャープがパブリックコメントを出していたけれど、OS提供者(Google)が自分たちで端末を作り、自分たちだけが使える機能を作るのはどうなんだと。要は、消しゴムマジック機能をなんでほかのメーカーに提供しないのかと、文句を言っているわけです。
Googleも縦割りの会社なので、OSを作っている部門と、Pixelを作っている部門が別々になっている。Pixel部門は、自分たちの端末が売れれば、それでいいと思っているし、OS部門はAndroidエコシステムを広げようとしている。シャープとしては、これに振り回されている印象です。
法林氏:だからこそ、シャープはGoogleを気にしていちゃだめだと思うよ。
石野氏:ただし、「Pixel 7a」をあの価格(6万2700円/Googleストア)で売られてしまうと、不満が出てしまう気持ちはわかる。Pixelはアップルではなくて、ほかのAndroidスマートフォンメーカーを倒すのが先なのか? と思ってしまったのでは。
石川氏:GoogleがGoogle Tensorを、ほかのAndroidスマートフォンメーカーに提供するようになれば、数が作れてチップも安くなるし、結果として端末価格も安くなって、みんながハッピーになれるかも。
法林氏:いや、Google Tensorの外販はないでしょう。相当な壁があると思うよ。
石野氏:そうですね。
石川氏:でも、クアルコムの高いチップを購入せざるを得なくて、悲鳴をあげているくらいなら……。
石野氏:Pixelって、日本では〝打倒iPhone〟の筆頭株みたいに思われていますが、アメリカでは、3%くらいしかシェアがないんですよね。
石川氏:そうだね。Pixelの売上の3割以上が日本だったはず。その次の3割がアメリカで、あとは残りになっている。
房野氏:日本が一番売れているんですよね。
石野氏:そうですね。だからこそ日本市場に力を入れているし、通常の為替レートよりも安い、Google独自のレートで価格設定している。さすがに今回は値上げしましたけどね。
石川氏:価格もそうだし、Googleストアで5万円分のクーポンがもらえるのも、ほかのメーカーが苦戦する理由。
房野氏:総務省としては、5万円分のクーポンはOKなんですかね。
石川氏:キャリアモデルじゃないし、通信料金とは絡んでいませんからね。
石野氏:指摘するなら、公取ですかね。
石川氏:でも、もらえるクーポンはGoogleのオンラインストアでしか使えないので、使い道がそれほどじゃないんですよね。
法林氏:Pixel Watchを買えばいい。自社のストアでしか使えないクーポンを配るという意味では、Galaxyも同じことをやっているでしょう。Galaxyの折りたたみスマートフォンを買うと、ストアで使えるクーポンが1万円分もらえて、それをタブレット用の資金として使ったりしている。
石川氏:もちろんそうですけど、1万円分だから使い切れる。Googleは5万円分ですよ?
法林氏:時計を買えばいいじゃん。
石野氏:時計といっても、5万円ですよ。これって結局、ユーザーの囲い込みになっていて、そこに対抗しないといけない各メーカーは厳しいですよね。例えばシャープは、端末の売り上げしかない中で、Googleの販促費はどこから出ているのかと考えると、他メーカーは難しい。
法林氏:ソニーだって、やりたければXperiaを買ってくれた人にクーポンを配ったっていい。
石川氏:最近のスマートフォンの争いは、AI機能の勝負になってきている。このままだと、数年後は、いよいよアップルとGoogleしか残れない可能性があります。クアルコムもAI性能をアピールしているけれど、AIで写真の画質を上げたり、加工をするという争いの中で、自社チップを持っていない会社は、厳しい戦いとなりそうですね。