【勝手にブック・コンシェルジュ 第2回】鈴木杏さんに、『年月日』を
今年の1月から3月までNHK総合で放映されたシーズン1があまりにもよかったから、出来を心配しておりましたが、杞憂でございました。まったくの杞憂でございました。
よしながふみの傑作漫画を原作にしたドラマ『大奥』のシーズン2「医療編」。
若い男子しかかからない赤面疱瘡(あかづらほうそう)と戦う人々の姿を軸に描かれていくこのシーズン2は、一橋治済(ひとつばしはるさだ)が権謀術数をふるいはじめてからがとりわけ素晴らしい!
相手を自分の口先と指先ひとつで思うがままに動かし、ひとが苦しむさまを見るのが楽しいだけというサイコパスを、仲間由紀恵がなんと見事に体現しているか。
正直、ここまで巧い役者になるとは思っていなかったので、トヨザキ、毎週感嘆の声を上げっぱなしなんであります。
わたしが応援していたのは平賀源内でした。女だから父親や兄の言うことにはどんな理不尽でも従わねばならず、蘭学を学ぶことも許されない。結婚をして子供を産まなければならない。
それがイヤで男装をし、平賀源内を名乗り、独学に励み、全国各地を渡り歩き、やがては赤面疱瘡の謎に迫っていく。中学生になった時、本当は野球部に入部したかったのにソフトボール部にしか入れなかった悔しさを今も鮮明に思い出すわたしは、源内にイレこんでこのドラマを見ていたんです。
なので、治済が裏から手を回し、源内を梅毒病みの男に襲わせる展開には身体が怒りで震えました。
というのも、このシークエンスはふたつの意味で無惨だからです。
まずは、梅毒をうつされ、若くして死ななければならなくなること。でも、もうひとつの理由のほうがもっと残酷。松下奈緒演じる田沼意次を慕っている源内は、おそらくレズビアンだからです。レズビアンが力づくで男に犯され、梅毒をうつされる……。その悔しさと悲しみはいかばかりでありましょうか。
で、源内を演じた鈴木杏の演技がまた素晴らしかった。天才的な頭脳の持ち主なのにそれをひけらかしたりいばったりせず、困っている人や弱っている人のために惜しみなく能力を献げる。
明朗快活で人なつこく、田沼さまの前で身をよじらせ照れる様の愛らしさは格別で、鈴木杏は平賀源内その人をドラマの中で生ききったのだと思います。
この源内役に限らず、杏さんはドラマに映画にとてもいい仕事を重ねていて、見ていてわくわくする役者の一人なのですが、子役でスタートした彼女の俳優人生が順風満帆であったかというとさにあらず。
出演作は多かったものの役には恵まれていなかった杏さんを成長させたのが、わたしは演劇だと思っているんです。女優として華やかな役にはなかなかつけなくても決して投げやりにならず、舞台で自分を磨いてきた鈴木杏。
その努力の年月が、ここ10数年間の素晴らしい仕事を支えていると、ファンの一人として勝手に思っている次第です。
さて、不撓不屈の優しい天才・平賀源内を見事に演じきった鈴木杏さんにオススメしたい小説は、閻連科の『年月日』(白水uブックス 電子書籍)です。
『年月日』
閻連科(著)谷川毅(訳)
白水uブックス