大きな社会問題となったジャニーズ事務所の性加害事件では、いわゆる「グルーミング」が行われたといわれています。グルーミングについては、2023年7月13日に施行された改正刑法によって、新たに処罰規定が設けられました。
本記事では、性加害の一種であるグルーミングに対する法規制の概要を解説します。
1. グルーミングとは
「グルーミング」とは、わいせつ行為や性交等を目的として、未成年の子どもと親しくなって手なづける行為です。児童虐待の一種に位置づけられます。
たとえば、以下のような行為がグルーミングに当たります。
・公園などで子どもに声をかけ、何度も会って話をして子どもを安心させた後に、わいせつな行為をする
・「勉強を教えてあげる」などと言って子どもを家に誘い、最初のうちはきちんと勉強を教えて信頼関係を築いた後に、わいせつな行為をする
・子どもを何度も家に招待して、高価な金品をあげたり豪華な食事をふるまったりして信頼関係を築いた後に、わいせつな行為をする
など
性加害者にとっては、グルーミングによって子どもとの間に信頼関係を築いておけば、わいせつ行為などを行っても発覚しにくいメリットがあります。
その結果、性加害者が処罰を受けないまま、長期間にわたって子どもに対する性的搾取が行われるおそれがあります。
2. 【2023年7月施行】刑法によるグルーミング規制
グルーミングについては、従来は犯罪としての処罰規定が存在しませんでした。
しかし2023年7月13日に施行された改正刑法により、新たにグルーミングの処罰規定が設けられました(刑法182条)。
2-1. グルーミング規制の対象者(主体・客体)
刑法によるグルーミング規制の対象となるのは、16歳未満の者に対するグルーミング行為です。
ただし、行為を受ける側が13歳以上16歳未満である場合は、その者よりも5歳以上年長の者によるグルーミング行為に限って処罰の対象となります。
2-2. グルーミング規制により処罰される行為と法定刑
新設されたグルーミング規制によって処罰されるのは、以下の行為です。
(1)わいせつ目的による以下の行為(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)
・脅し、騙し、または誘惑して面会を要求すること
・拒否されたのに、繰り返し面会を要求すること
・お金などを実際に渡し、またはお金などを渡す申込みや約束をして面会を要求すること
(例)仲良くなってわいせつな行為をするために、自宅へ来るように子どもを誘った場合
(2)(1)の罪を犯し、実際にわいせつの目的で被害者と面会する行為(2年以下の懲役または100万円以下の罰金)
(例)仲良くなってわいせつな行為をするために、自宅へ来るように子どもを誘った後、その誘いに応じた子どもと自宅で会った場合
(3)性交などの性的な姿態をとらせた上で、その映像を送信させる行為(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)
(例)SNSなどで子どもとメッセージをやり取りし、親しくなった後で裸の写真を送信させた場合
グルーミング規制の新設により、実際にわいせつ行為や性交等に及んでいない段階でも、性加害者を処罰できるようになりました。
なお、実際にわいせつ行為や性交等が行われた場合には、不同意わいせつ罪(刑法176条)や不同意性交等罪(刑法177条)などによってさらに重く処罰されます。