他人の土地へ勝手に入ると、住居侵入罪によって処罰されるおそれがあります。ただし、すべての土地が住居侵入罪の対象となっているわけではありません。
本記事では、他人の土地へ勝手に入る行為は犯罪なのかどうか、そのボーダーラインについて解説します。
1. 他人の土地に勝手に入ると「住居侵入罪」が成立することがある
「住居侵入罪」とは、正当な理由がないのに、人の住居や人の看守する邸宅・建造物・艦船に侵入する犯罪です(刑法130条前段)。住居侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10年以下の罰金」とされています。
住居侵入罪が成立するケースの典型例は、住居等の建物に無断で立ち入った場合です。しかしそれだけでなく、建物の敷地に無断で立ち入った場合にも、住居侵入罪が成立することがあります。
2. 住居侵入罪が成立するケース・成立しないケース
他人の土地へ勝手に入る行為について、住居侵入罪が成立するかどうかは、その土地が住居等の「囲繞地(いにょうち)」であるか否かによって異なります。
2-1. 住居・邸宅・建造物の囲繞地への無断立ち入り|住居侵入罪が成立する
住居侵入罪によって処罰されるのは、人の住居または人の看守する邸宅・建造物・艦船への無断立ち入りです。
住居:人が日常生活に利用する場所
邸宅:居住用建造物で、住居以外のもの
建造物:住居、邸宅以外の建物全般
艦船:軍艦および船舶
このうち住居・邸宅・建造物には、それに附属する囲繞地も含まれると解されています(最高裁昭和51年3月4日判決)。
囲繞地とは、建物に隣接する付属地であって、管理者が門塀などを設置することにより、建物の付属地として利用することが明示されているものです。
たとえば戸建住宅の庭のほか、マンションや公共施設であれば、門塀の内側にある敷地などに無断で立ち入った場合は、住居侵入罪が成立する可能性があります。
ただし土地の性質上、公共の利用に供することが当然に予定されている場合は、その土地に立ち入った人が何らかの不当な目的を有していない限り、住居侵入罪は成立しないと思われます。明示的ではなくとも、管理者が立ち入りを許可していると考えられるからです。
たとえば、商業施設の囲繞地である公共スペースに立ち入る行為については、窃盗などの不当な目的がない限り、住居侵入罪は成立しません。
また、立ち入った土地が住居・邸宅・建造物の囲繞地であることを認識していなかった場合は、犯罪の故意がないため住居侵入罪は成立しません。
たとえば、建物とは関係がない月極駐車場だと思っていたのに、実は建物の敷地だった場合には、立ち入り行為について住居侵入罪は成立しないと考えられます。
2-2. その他の土地への立ち入り|住居侵入罪は成立しない
住居・邸宅・建造物の囲繞地でなければ、土地に立ち入っただけでは住居侵入罪は成立しません。
たとえば、建物から離れて存在する月極駐車場への立ち入りは、他人の土地であっても住居侵入罪の対象外です。また、マンションなどの敷地であっても、門塀によって外部の土地から区画されていない部分については、立ち入っても住居侵入罪は成立しないと思われます。
ただし、住居侵入罪が成立しない立ち入り行為についても、土地の所有者等が損害を被った場合は不法行為(民法709条)に当たり、所有者等に生じた損害を賠償しなければならない点にご注意ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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