なぜシドニーが開催地に選ばれたのか?
さて、ここにきて気になるのが、なぜシドニーがSXSWの公式開催地に選ばれたかである。
地元紙によると、SXSWの運営組織は以前からアジア太平洋地域で音楽シーンが盛り上がっていることに注目し、開催地を拡大しようというアイデアが出ていたという。米国での影響を考えれば韓国が候補になりそうだが、会場の運営や言葉の問題もあってシドニーが選ばれたのではないかともしている。
シドニー側も観光地としてこの10年間苦戦しており、特にナイトライフ・エコノミーをどう盛り上げるかが課題になっていた。そこにSXSW開催の話が持ち上がり、シドニーがあるニューサウスウェールズ州政府の観光イベント機関である「Destination NSW」の支援を受けてSXSWシドニーが開催されることが決まった。開催は2018年から計画されていたが、パンデミックの影響でようやく今年になって開催されたというわけだ。
現地に来て数日で感じたのは、オースティンとシドニーは気候も含めて雰囲気が良く似ていて、カルチャー的にも違和感があまり無いことだ。数日滞在しただけでシドニーの街とSXSWの相性がとても良いことが感じられ、個人的にはシドニーが開催地に選ばれたことに納得できた。
夜になっても街は明るく、交流を楽しむにはぴったりのお天気が続いた。
むしろ、規模が巨大化してどこをどう回ればいいかが難しくなりつつあるオースティンよりも、会場全体の雰囲気をつかむことができ、SXSW以外の楽しみもたくさんある。会期中は専用のシャトルバスも走っているが、徒歩でも移動しやすくシェアバイクもあちこちにあるという便利さだ。
特に日本とは時差が2時間しかなく、直行便なら8〜11時間で来られるという近さだ。空港から中心地までは電車で15分ほどしかかからず、電車、トラム、バスといった公共交通も充実していて、VISAタッチが使えるので交通カードを購入する必要もない。ホテルも今のところはイベント価格になっておらず、会場の徒歩圏内でも十分予約できた。
シドニーの中心地は公共交通が充実していて、期間中は無料の巡回バスも利用できる。
今回は初めての開催ということで、どちらかといえばオーストラリア国内向けのお披露目的な内容だったようなところがあったのかもしれない。スピーカーもオーストラリアの人たちが中心で、例えばAIの話題にしても「オーストラリアでAIの活用を規制すべきか」といったドメスティックな議論になることが多かった。
開催案内が遅れたためグローバルでの参加者が少なかったという話も耳にしたが、記事を書いている時点で主催者から参加者に関する情報は発表されておらず、実際にどうだったのかは気になるところだ。
オースティンもスローガンに「Keep Austin Weird(オースティンの奇妙さを維持せよ)」を掲げ続けることで独自性を築いてきたわけで、シドニーも今後回数を重ねるにつれて独自のスタイルを作り上げていくようになるだろう。日本からも注目されるグローバルイベントになるのか、違う方向へと向かうのか、引き続き注目していきたい。
個人的にはセッション前に土地の伝統的な所有者(先住民)に対する敬意を示す「Acknowledgement of Country」が必ず表示されるといったところにシドニーらしさを感じた。
SXSWシドニーの詳しい様子についてはこの後もレポートで紹介する。
取材・文/野々下裕子