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コーヒーが飲めなくなる!?教養としての「コーヒーの2050年問題」

2023.11.01

地球温暖化とコーヒーの2050年問題

コーヒーが飲めなくなる、という衝撃的な未来予測がいかに深刻かという問題は、コーヒーがいかに私たちの生活に浸透しているかという点をおさえてから、語るべきだろう。

コーヒーの貿易相取引額は、一位の石油に次いでなんと二番目。世界中で一日に約20億杯ものコーヒーが飲まれている計算となる。

世界の消費量は1位EU、2位アメリカ、3位ブラジル、そして4位日本で、世界トップクラスのコーヒー大国である。さらに現在、急成長している中国はこの10年間で10倍以上に増え、平均増加率は年15%以上、2025年には一兆元を超え得るとも予想されている。

コーヒーは農産物であり、気候変動に大きく影響される。特にアラビカ種の栽培農地は、気温が1年間を通じて20~25度であることが必須で、高温にあると病気に罹りやすくなる。また、低温だと実が小さくなり、収穫量が減ってしまう。特に霜によるダメージは大きく、若い木が霜害で枯れてしまうこともある。

特に栽培地では寒暖差が必要で、昼間は暖かく、夜は低温といった、温度に差が出ることで、コーヒーの実はゆっくり熟して、味わい深くなる。特に標高が1000~2000メートルほどの高地だと品質が良くなる性質を持っている。

2015年、ミラノ万博で、コーヒーの2050年問題が公表された。このまま地球温暖化が進み、栽培地の平均気温が上がれば、収穫が減り、コーヒーの品質が低下すると予測したのである。

井崎さん自身はこうした深刻な状況について、「コーヒーが飲めなくなると言うのも、あながち誇大表現とは言えないかもしれません」と言いつつも、「歴史を振り返れば、人類は何とかしてコーヒーを飲むはずなので、コーヒーをなくしたくない、という意志さえあれば、なんとかなるだろうという考える人は多く、私もその一人です。技術の進歩で補える点は、まだまだあると思います」と語っている。

とはいえ、収穫量が減少すれば、現在の様に良質なコーヒーが安く手に入るものではなくなり、きちんと価値に見合った価格設定へと見直されていく可能性がある。

井崎さんも「これからの時代に求められるのは、良いものに適切な付加価値を付けて売る努力だと思っています」と語っている。2050年問題は、既存の薄利を重ねるビジネスモデルを見直すチャンスとなり、持続可能なビジネスモデルへと変化するきっかけになりそうだ。

日本のコモディティコーヒーのレベルは世界最高峰

井崎さんは、来日したコーヒー関係者に、コンビニのコーヒーをふるまうことがあると言う。たいていの人は驚いて、こんなに安くておいしいコーヒーが飲めるのか、と、驚かれるそうだ。

コーヒーは「スペシャルティコーヒー」「プレミアムコーヒー」「コモディティコーヒー」と3つに分かれている。缶コーヒーやコンビニコーヒーなどの、一般の人が安く、手軽に飲めるコモディティコーヒーの分野は、日本は世界で最も高いレベルを誇っている。

一方で、良いものを安く作る精神が発達した一方で、良いものが高く売れないという弊害も生み出している側面があると、井崎さんは考えている。

「ミシュランの星付きシェフが高級食材で作った料理を、紙皿で食べたいですか?いかに安くてもそれでは台無しだと思う人が多いのではないでしょうか。何かの記念に三つ星レストランに行くとして、それは料理の味だけをもとめているわけではないはずです。空間、雰囲気、食器などを含め、総合的な体験として楽しむのです」。

今後はそうした品質以外のSDGs的な側面や道徳的な責任など、品質以外の部分で評価されるスペシャリティコーヒーが求められていくと井崎さんは期待している。「トレーサビリティとサステナビリティに配慮したスペシャルティコーヒーは時代の要請とも言えるでしょう」とさらなる進化を予想してくれた。

最後に井崎さんからのメッセージをお届けしたい。

「多くの人が愛するコーヒーという神様からの贈り物を、未来永劫なくさずに、持続可能なものにするために、私達がまずできることは、なぜコーヒーが長きにわたって愛されてきたのか、そのロマンに思いを馳せることです。多くの人はコーヒーと共に豊かな人生をおくれますように」。

井崎英典さん
第15代ワールド・バリスタ・チャンピオン 株式会社QAHWA代表取締役社長 高校中退後、父が経営するコーヒー屋「ハニー珈琲」を手伝いながらバリスタに。2012年に史上最年少でジャパン・バリスタ・チャンピオンシップにて優勝し、2連覇を成し遂げた後、2014年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンとなり、以後独立。コーヒーコンサルタントとして年間200日以上を海外でコンサルティングに従事し、Brew Peaceのマニフェストを掲げてグローバルに活動。コーヒー関連機器の研究開発、小規模店から大手チェーンまで幅広く商品開発からマーケティングまで一気通貫したコンサルティングを行う。 日本マクドナルドの「プレミアムローストコーヒー」「プレミアムローストアイスコーヒー」「新生ラテ」の監修、カルビーの「フルグラビッツ」ペアリングコーヒーの開発、中国最大のコーヒーチェーン「luckin coffee」の商品開発や品質管理など。テレビ・雑誌・WEBなどメディア出演多数。著書・監修に『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』ダイヤモンド社、『理由がわかればもっとおいしい! コーヒーを楽しむ教科書』ナツメ社、『世界一のバリスタが書いた コーヒー1年生の本』宝島社など累計10万部突破。

文/柿川鮎子

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