GX政策で需要が高まるのは再エネを支えるインフラ企業
今年2月に日本政府が閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、2030年に温室効果ガスの排出量を46%削減、2050年には差し引きゼロの状態「カーボンニュートラル」を目指す。実現に向け、省エネルギーの推進、太陽光・洋上風力などの再生可能エネルギー普及の方針が示されている。
〝壮大〟ともいえる計画の実現に向けて投資マネーはどう動くのだろうか。そもそも電力の市場規模は、2030年には全体で約20兆円(主要電力会社12社の年間売上高)に及ぶとされており、建設業界(約17兆円)や食品業界(約19兆円)よりも大きい市場となっている。だが、GX関連に絞ってみると約20兆円中約1.5兆円と、約10%程度にとどまっている(『グリーンエネルギー市場予測調査2023』富士経済)。
証券アナリストとして長年株式相場と向き合い、愛称〝相場の福の神〟こと藤本誠之さんはこう分析する。
「前提として、電力産業の分野は多岐にわたり、再エネのパイ自体は大きくありません。また、インフラ整備として数十年単位でつきあっていくものなので、今後どの企業が中心になるのか見極めることが必要です。ただ、政策で推進することは決まっているので、投資期待があることも確かです」(藤本さん)
「ピンポイントで、この企業が確実とは言いにくい」と続けるが、期待できる銘柄はどう見つければよいだろうか。
「例えば日本の土地柄からアプローチしてみましょう。再エネといえば太陽光ですが、このパネルを都心部のビル街に設置するのは難しい。これらは地方や山間部に設置する必要があり、送電設備も新たに延ばして効率的に電力を送らなければなりません。その点、海に囲まれた日本列島の沿岸部での洋上風力発電は、再エネの主力と言えるかもしれません。ただ、機器を海に設置すれば塩害が避けられず十数年単位と従来の発電に比べて機器交換のスパンが早まるといえます」(藤本さん)
GX実現に必要な送電設備やそれを効率化する技術を持つ企業が投資対象になるというのが藤本さんの見方だ。
「さらにEUでは電気自動車の普及に向けたガソリン車販売禁止の動きがありますが、足元では二酸化炭素と水素から作る合成燃料であれば使用を認める動きも出てきました。これが認められれば日本のPHEVにも商機が見えてくるでしょう」(藤本さん)
証券アナリスト
ITストラテジスト
藤本誠之さん
日興證券、マネックス証券、SBI証券などを経て、現在はマーケットアナリストとしてメディアを中心に活躍。年間400社の上場企業経営者との面談を行ない、個人投資家に真の成長企業を紹介している。
再エネ施設の開発・運営を通貫
リニューアブル・ジャパン
2021年12月に上場した再生可能エネルギーの新興デベロッパー。発電所の開発から運営・管理までを一気に引き受けることで運用効率化を目指しつつ地方自治体との関係構築や、金融ファイナンスに取り組むことで、GXに向けた事業推進を行なっている。
【株価(最低購入価格)】877.0円(8万7700円)
【時価総額】260億5800万円 【配当利回り】──
【優待】無 【PER】34.34倍 【PBR】2.48倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉東北や北陸地方などで再エネ関連の取り組みを自治体と連携し、発電場所の確保と地方創生を両立させている企業です。太陽光、風力、水力などの幅広い事業がリスク低減につながっています。
ロータリー発電機搭載PHEVに期待
マツダ
11年ぶりにロータリーエンジン搭載車『MX-30』を発売する自動車メーカー。ロータリーエンジンを発電機として駆動させることで、軽量コンパクトで高出力を実現でき、ガソリン車の淘汰が始まる欧州や日本の市場に新たなPHEV車として一石を投じることになった。
【株価(最低購入価格)】1696.5円(16万9650円)
【時価総額】1兆718億5500万円 【配当利回り】2.65%
【優待】有 【PER】8.22倍 【PBR】0.71倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉モーターとエンジンとで駆動するPHEV車は国内外で需要が増えると見ています。とりわけロータリー発電機は、将来的にEV普及が遅い地域や極寒冷地などで活躍していくのではないでしょうか。
今後の洋上風力発電の拡大に期待
レノバ
日本国内では数十か所で、太陽光や風力、バイオマスでの再生可能エネルギー発電所を手がける新電力会社だ。洋上風力発電では千葉・いすみ市沖や佐賀・唐津市沖での稼働を目指して現在、開発を行なう。
【株価(最低購入価格)】1132円(11万3200円)
【時価総額】896億3400万円 【配当利回り】──
【優待】有 【PER】7.42倍 【PBR】1.63倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉洋上風力発電に取り組む企業の中で大規模な会社です。近年は電力供給安定化の蓄電池にも力を入れており、ビジネス拡大に期待。
太陽光パネルを標準装備した住宅を販売
フィット
クリーンエネルギー事業を軸に、太陽光パネルと一体化したおしゃれな規格住宅「ソーラーリッチハウス」などを手がける。個人自らが再エネ利用でカーボンニュートラルと電気代の節約の両立ができる社会を目指す。
【株価(最低購入価格)】823.0円(8万2300円)
【時価総額】35億2600万円 【配当利回り】1.46%
【優待】有 【PER】9.32倍 【PBR】0.71倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉都心では難しいですが、地方での太陽光発電と一戸建て住宅を組み込んだ建築ニーズは今後継続的に増えると見られます。
電力鉄塔大手。電力・通信関連が主力
那須電機鉄工
電力インフラを支える屋台骨として、送電線の敷設に必須な鉄塔の企画設計・製造を行なっている。また「水素吸蔵合金システム」という再生可能エネルギーの貯蔵ソリューションも手がけている。
【株価(最低購入価格)】8740.0円(87万4000円)
【時価総額】104億8800万円 【配当利回り】1.14%
【優待】無 【PER】9.35倍 【PBR】0.41倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉再エネ発電所が新規建設されるほど送電網を引く必要が増えます。鉄塔建設のノウハウがある同社への発注は確実に増加するでしょう。
巨大インフラ設備の解体に特許技術あり
ベステラ
解体に特化した企業で、化学工場や製鉄所、発電所などの様々なプラントや工場のインフラ設備に対応する。ガスタンク解体など特許技術も多い。また、その技術にも脱炭素のノウハウが組み込まれている。
【株価(最低購入価格)】1007.0円(10万700円)
【時価総額】90億5300万円 【配当利回り】1.99%
【優待】有 【PER】45.75倍 【PBR】2.30倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉洋上風力発電を短スパンで更新・再建設する時など、大型な発電設備を解体できる数少ない企業として注目されるはずです。
バイオマス発電のエコシステム構築がカギ
イーレックス
バイオマス発電所を国内で5基稼働させる。燃料はパームヤシの殻(PKS)を独自調達し、自社内でエコシステム構築を図る。海外ではカンボジアやベトナムで発電や燃料事業にも取り組む。
【株価(最低購入価格)】767.0円(7万6700円)
【時価総額】4560億400万円 【配当利回り】2.87%
【優待】有 【PER】10.33倍 【PBR】0.75倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉バイオマスに特化し、事業リスクが高めに見えますが、PKS燃料の自社調達や外販による合理化に注目できます。
AI技術で社会インフラを最適化
グリッド
人工知能(AI)ソリューションを手がけるIT企業で、様々な社会課題の解決に取り組む。再エネ関連では電力会社と協業し、発送電の効率化が可能になる電力の需給予測ソリューションを提供している。
【株価(最低購入価格)】3260円(32万6000円)
【時価総額】1520億7000万円 【配当利回り】──
【優待】無 【PER】41.74倍 【PBR】10.18倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉電力DX企業として、この先新規敷設される発送電インフラや、既存インフラの効率化に貢献してくれる可能性が高いです。
ワイヤロープ最大手。炭素繊維ケーブルに強み
東京製綱
ワイヤロープの国内最大手メーカーとして、創業100年以上を誇る。送電・通信ケーブルの製造販売やエンジニアリング事業を手がける。鉄鋼メーカーの国内最大手である日本製鉄が資本に参加している。
【株価(最低購入価格)】1360.0円(13万6000円)
【時価総額】221億2500万円 【配当利回り】2.94%
【優待】無 【PER】8.03倍 【PBR】0.68倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉発電種類を問わず発電所から一般家庭まで、送電インフラを構築するのに欠かせない送電ケーブルの需要は尽きないでしょう。
電線・ケーブルを世に送り出すインフラ企業
SWCC
太陽光、風力などの各発電用途に特化したケーブルや海底送電ケーブル、免振・制振材料などを製造・販売する。電信や通信の分野を中心に、大手不動産と協業して社会インフラを支えている。筆頭株主は三菱商事。
【株価(最低購入価格)】2129.0円(21万2900円)
【時価総額】656億3000万円 【配当利回り】3.52%
【優待】無 【PER】9.09倍 【PBR】0.94倍
〈FUJIMOTO’S SIGHT〉電力に限らず通信や自動車工場などの場面に対するノウハウが、発送電を効率化するスマートグリッドに役立つと見ています。
取材・文/久我吉史
※データは2023年9月29日時点。配当利回りの「―」は無配。
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