骨や神経と融合するバイオニックハンドの装着に成功
20年以上前に農作業中の事故で右手を失ったスウェーデンの女性に対するバイオニックハンドの装着に世界で初めて成功したことを、スウェーデンとオーストラリア、イタリア、米国の国際共同研究グループが、「Science Robotics」2023年10月号に報告した。2017年に装着して以来、この義肢は患者自身の神経、骨、筋肉と完全に一体化しているという。
この研究成果に関するサンターナ大学院大学(イタリア)のニュースリリースによると、バイオニックハンドの装着が成功した患者として紹介されているのは50歳のKarinさんだ。
Karinさんは、残存肢(断端部)の痛みと幻肢痛という2種類の痛みを抱えていた。幻肢痛は切断によって失ったはずの手や足がまだ存在するように感じ、その部位に痛みを覚える現象で、四肢を切断した患者ではよく生じる。
これらの痛みに対処するため、Karinさんはさまざまな種類の鎮痛薬を高用量で服用していた。その上、彼女が以前使っていた標準的な義手は、不快で扱いにくいものだった。
このバイオニックハンドの装着後、Karinさんの幻肢痛の強さは10段階の痛みのスケールでのスコアが5点から3点に低下した。
また、かつて痛みのスケールで6点だった断端痛も、今は完全に消失している。Karinさんは、「現在は薬の必要量はかなり減り、義手もコントロールしやすくなった」と述べている。
研究リーダーでバイオニクス・疼痛研究センター(スウェーデン)およびバイオニクス研究所(オーストラリア)のMax Ortiz-Catalan氏によると、標準的な義肢装具の主な問題の一つは、義手のコントロールのしにくさなのだという。
「洗練された義肢はいくつかあるが、信頼性をもって全ての機能を直感的にコントロールするのは患者にとって難しい」とOrtiz-Catalan氏は指摘。
また同氏は、そのような義肢デバイスは通常、皮膚を強く圧迫するソケットを使って残肢に装着されるため、不快感や痛みを伴うことも問題として挙げている。
研究グループは、これらの問題に対処するため、イタリアのロボット会社であるPrensilia社が開発した新しいロボットハンドデバイスの有用性の評価に着手した。
同社によると、「Mia Hand(ミア・ハンド)」の愛称で呼ばれるこのバイオニックハンドは、患者が日常生活動作の最大80%を実行できるように設計されている。
また、義肢を持つ人がしばしば直面するスティグマの軽減のため、審美面を考慮したカスタマイズもできるという。
バイオニックハンドは、オッセオインテグレーションと呼ばれる方法により骨格に直接接続される。
骨組織は徐々にバイオニックハンドの中のチタンを包み込み、身体とバイオニックハンドが強固に結合する。
「こうしたインプラントは、義肢と神経や筋肉に埋め込まれた電極との間の通信手段としても機能する」とOrtiz-Catalan氏は言う。
電極は局所的な神経のコントロールに関する情報を収集する。その情報は外部に送信され、コンピューターがAI(人工知能)ソフトウェアを使ってバイオニックハンドの使い方をガイドする。
さらに、バイオニックハンドにはセンサーも取り付けられており、患者自身の神経とバイオニックハンドが関わるあらゆる物体との間で感覚のフィードバックが行われるという。
Ortiz-Catalan氏は、Karinさんは「高度に統合されたバイオニックハンドという新たなコンセプト」について検討した最初の患者であり、デバイスの機能も「生物学的な手足の機能には程遠い」と指摘している。
その一方で、Karinさんが日常生活で快適かつ効果的にバイオニックハンドを使用していることは、「四肢を失った人にとって、この新しい技術が人生を変える可能性を持っていることの証しとなるのではないか」と期待を示している。(HealthDay News 2023年10月12日)
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写真:バイオニックハンドを装着するKarinさん Photo Credit: Ortiz-Catalan et al
(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.adf7360
Press Release
https://www.santannapisa.it/en/news/ricerca-mano-bionica-progetto-detop
構成/DIME編集部