人の動作を支援するデバイスや人へのフィードバック方法を検討
KDDIとKDDI総合研究所は、スポーツ用具などに内蔵可能な小型・薄型の力触覚提示技術および同技術搭載の卓球ラケット型力触覚提示デバイスを開発したと発表した。
近年、センシング技術やデータ解析技術の進歩に伴い、スポーツにおけるフォーム解析など、データに基づく指導やトレーニングの支援が行なわれている。しかし、これらの指導や支援のフィードバックにおいて力加減や身体を動かすタイミングなどのいわゆるコツは言葉だけでは直感的に伝えづらく、直接的な後押しになる技術は限られていた。
KDDIとKDDI総合研究所は、VR技術によるプロスポーツ体験、自由視点技術によるスポーツの新たな観戦スタイルの提案や、行動認識AIによるアスリート育成支援など、スポーツの分野においてXRやAIを活用した研究開発を進めてきた。また、これまで五感を伝達する技術にも取り組んでおり、触覚を伝える「Sync Glass」や「Sync Sofa」を開発してきた。
そこで両社は、これまでの映像伝送や映像解析技術の知見と力触覚提示技術を掛け合わせ、スポーツ用具や楽器などの道具を介して学習のコツを直接的に伝える、教育、学習領域のDXに着手したという。
今回の開発では、カメラなどで感知したデータを解析し、その結果を遅延なく同デバイスに送信して腕の動きを支援する仕組みを構築。腕の動きを支援する仕組みの詳細は次のとおりとなる(図1)。
(1)カメラで撮影したボールの位置、プレーヤーの位置、姿勢の情報、および本デバイスの位置や向きの情報をサーバーへ送信
(2)ボールを打ち返すための理想的な打球位置とスイングのタイミング、スイングの速度をサーバーで解析
(3)解析したスイングのタイミングとスイングの速度を本デバイスに送信、本デバイスを動作させ、プレーヤーのスイングを支援、解析した打球位置などを映像や音で提示することも可能
また、卓球ラケット型力触覚提示デバイスには、内部に回転軸が直交するモータを2つ搭載(図2)。この2つのモータを同時に駆動して、回転する円盤に二軸の回転を与えることでジャイロ効果を発生させ、同デバイスを握るユーザの手に対し、前後方向に引っ張る力を提示できる(図3)。
既存の力触覚提示技術の多くはロボットアームなどの接地型や外骨格型で、スポーツのプレーのアシストには適していなかった。一方、エアジェット方式と呼ばれる気体を噴射し、姿勢制御を行なう仕組みがありますが、装置を小型化すると提示できる力が不十分だった。
また、ジャイロ方式は非接地型での力触覚提示が可能で、人工衛星の姿勢制御などに用いられているが、回転する円盤を多軸に自由回転させるため、通常、球状の容積が必要で装置が大型化し、卓球ラケットのような小型かつ薄型の形状としての実現は困難であった。
今回開発したデバイスは、回転円盤の角度と速度を、ユーザの動作に合わせて制御することで、提示する力を維持したまま円盤の傾けることができる範囲を狭めることに成功し、非接地型で小型かつ薄型の独自のジャイロ方式に基づく力触覚提示技術を実現した。
↑図3:小型かつ薄型の独自のジャイロ方式による力触覚提示技術の仕組み
今後の展開としては、人の動作を支援するデバイスや人へのフィードバック方法の検討をすすめ、さまざまな教育、学習のDXに向け適応領域を増やしていくとともに、さまざまなパートナーと連携し、五感の再現・表現技術がスポーツにもたらす効果を順次分析し、さらなる知見を獲得していくとのこと。
さらに、将来的には、団体スポーツや合奏、共同デザインなどにおける連携スキルの向上、災害時やさまざまな生活シーンで活用できるように研究開発を進め、誰もが適切な支援を受け、経験やスキルに依らず成長できる、誰もが思いを実現できる社会の実現を目指すとしている。
関連情報
https://www.kddi.com/
https://www.kddi-research.jp/
構成/立原尚子