3. 被相続人口座の凍結後は払戻し制度を利用できる
家族が亡くなったことを銀行に連絡すると、原則として被相続人口座からの出金はできなくなります。
ただし、生活費・葬儀費用・相続債務の弁済などの資金需要がある場合に備えて、各相続人には被相続人口座の一部の払戻しを受ける権利が認められています(民法909条の2)。
次の(1)および(2)の範囲内であれば、各相続人が単独で被相続人の預金を引き出すことが可能です。
(1)口座ごとに、相続開始時の預金額×1/3×払い戻しを受ける相続人の法定相続分
(2)金融機関ごとに150万円
(例)
A銀行の普通預金の額が1,200万円、法定相続分が1/4の場合
→上限100万円(=1,200万円×1/3×1/4)
A銀行の普通預金の額が1,200万円、A銀行の定期預金の額が1,200万円、法定相続分が1/4の場合
→上限150万円
A銀行の普通預金の額が1,200万円、B銀行の普通預金の額が1,200万円、法定相続分が1/4の場合
→A銀行から上限100万円、B銀行から上限100万円
また、家庭裁判所の仮処分命令に基づけば、上記の上限を超える預金の払戻しを受けることもできます。
4. 被相続人口座の相続手続きの流れ
亡くなった家族の銀行口座の相続手続きは、以下の流れで行います。
(1)銀行口座を探す
相続の対象となる被相続人口座を探して特定します。被相続人の生前に聞いていた口座以外にも口座が存在する可能性があるので、全店照会などによって調査を行いましょう。
(2)銀行に死亡を連絡する
被相続人口座がある銀行に対して、本人が亡くなったことを連絡します。この時点で被相続人口座は凍結されます。
(3)遺言書の有無・内容を確認する
遺言書があれば、原則としてその内容に従って預金を分けます。被相続人の遺品を探すほか、公証役場や法務局にも遺言書が保管されていないかを確認しましょう。
(4)遺産分割を行う
遺言書で分け方を指定されなかった預金については、相続人で話し合って分け方を決めます。分割方法に合意したら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成しましょう。
(5)遺言書または遺産分割に基づき、預貯金の相続手続きを行う
遺言書または遺産分割協議書、および戸籍謄本類などの必要書類を提出して、被相続人口座がある銀行に相続手続きを申請しましょう。手続きが完了すると、被相続人口座の預金の払い戻しを受けられます。
5. まとめ
亡くなった家族の預金の引き出しや相続手続きについては、トラブルを防止するために注意すべきポイントがあります。銀行担当者や弁護士などのアドバイスを踏まえて、慎重な対応を心がけてください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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