2000年代後半から勢いを見せ始め、2010年代ではゲーム業界におけるまさに覇権を握ってきたモバイルゲーム。基本プレイ無料で、サービスを継続しつつアプリ内で追加課金させるというFree to Play形式で様々なモバイルゲームアプリがこれまでリリースされてきた。しかし昨今、サ終(サービス終了)するタイトルが増えてきた。中にはサービス開始から半年ほどでサービス終了する大作タイトルも。サ終が相次ぐモバイルゲームの現状について、専門家に聞いた。
長年愛されたあのゲームも!”サ終”相次ぐモバイルゲーム業界
ここ数年、モバイルゲームのサービス終了、いわゆる”サ終”が相次いでいる。「基本プレイ無料、アプリ内課金あり」というFree to Play形式のスマートフォン向けゲームが2000年代後半から人気が出始め、2010年代に市場は一気に成長を遂げた。しかし2020年以降は成長が鈍化。Sensor Towerの調査によると、2022年の日本市場におけるモバイルゲーム市場の収益は147億ドル(約2兆円、※)とコロナ禍前の2019年と同程度の水準まで落ち込んだ。
※記事作成時点の取引レートにて計算
そこで、主要なサービス終了したモバイルゲームを以下に示した。『アイドルマスター シンデレラガールズ』や『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』など、シリーズ人気に大きく貢献した人気作が続々とサービス終了。ラブライブに関しては、続編となる『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル2 MIRACLE LIVE!』が4月から配信されている。一方で『遊戯王』や『聖剣伝説』といった人気IPを活用したタイトルでも1年近くでサービス終了となっている。更にはサービス開始から半年以内にサービス終了となったタイトルもあり、モバイルゲーム市場で生き残る難しさを物語っている。
ゲームタイトル |
運営元 |
サービス開始 |
サービス終了 |
アイドルマスター シンデレラガールズ |
バンダイナムコエンターテインメント |
2011年11月 |
2023年3月 |
ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル |
ブシロード |
2013年4月 |
2023年3月 |
テイルズ オブ アスタリア |
バンダイナムコエンターテインメント |
2014年4月 |
2023年5月 |
ヴァンガード ZERO |
ブシロード |
2019年12月 |
2023年6月 |
Re:ゼロから始める異世界生活 Lost in Memories |
セガ |
2020年9月 |
2023年5月 |
ゆるっとジャンプオールスターズ |
集英社 |
2021年4月 |
2023年6月 |
ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ |
スクウェア・エニックス |
2022年1月 |
2023年2月 |
シン・クロニクル |
セガ |
2022年3月 |
2023年5月 |
聖剣伝説 ECHOES of MANA |
スクウェア・エニックス |
2022年4月 |
2023年5月 |
魔法科高校の劣等生 リローデッド・メモリ |
スクウェア・エニックス |
2022年6月 |
2023年8月 |
遊戯王クロスデュエル |
コナミ |
2022年9月 |
2023年9月 |
World II World |
アニプレックス |
2023年2月 |
2023年7月 |
サクライグノラムス |
マーベラス |
2023年2月 |
2023年4月 |
背景にはモバイルゲームの”投資化”
モバイルゲームの”サ終”ラッシュの背景には、コロナ禍の終了による可処分時間および所得の奪い合いの再燃が可能性の一つとして挙げられると、スマートフォン評論家の新田ヒカル氏は語る。
「2022年までは1日のほとんどを自宅で過ごしていたため、ゲームに時間やお金を多く充てられていました。しかし2023年に入り、外出する機会が増えたことにより、ゲーム以外に費やすことが増えてきていると考えられます」
それ以上に大きな影響として考えられるのが、モバイルゲーム業界全体における開発規模の大型化だという。
「2012年にサービスが開始し、今も根強く人気な『パズル&ドラゴンズ』は、開発費は1億円未満でした。しかしスマートフォンの高スペック化にともない、昨今のモバイルゲームは高いクオリティを求められています。そのため開発費は数億円にのぼっており、10億円超えも珍しくありません。そして中国のmiHoYoが開発した大人気タイトル『原神』の開発費は100億円以上。開発期間も3年以上かけ、開発スタッフもコアメンバーだけで数百人という規模になっています。一つのゲームに対して費やす時間も金額も、ここ数年で非常に大規模化しています」
その結果、モバイルゲームが従来以上に「投資」化してきていると新田氏は語る。
「モバイルゲームの場合、サービスの継続にも多くのリソースが必要となります。億単位のゲームであればなおさらです。3ヶ月がサービス継続の判断基準となっており、ヒットの目処が立たない場合は早い段階でサービス終了という『損切り』の判断を行なうそうです」
開発規模の巨大化は、すでにコンシューマーゲームが通ってきた道でもある。しかしモバイルゲームはその間隔が非常に短く、しかもライフスタイルの多様化にともなう需要の分散も相まって、非常に厳しい環境下でしわ寄せが来ているのだ。
「今のモバイルゲーム市場では、多額の資金を投じて高クオリティなゲームを開発する中国企業を相手にしないといけません。国内ゲーム開発企業が同じ土俵で戦って生き残るのは相当苦しいと思います。2021年にリリースされてヒットした『ウマ娘 プリティーダービー』も、サービス開始を2年以上延期してクオリティを上げた結果のヒットです。そうした失敗のケアができる、企業としての体力も非常に重要になってきます」
これからの国内モバイルゲームは「インディーズ化」「クラウドファンディング」が鍵になると新田さんは予想する。
「コンシューマーゲームやPCゲームのように、大規模タイトルと超小規模で制作するインディーズゲームのようなタイトルとの二極化が進むと予想されます。また、クラウドファンディングのように『このくらい課金してくれたらサービス継続できる!』といった形であえてユーザーに運営資金を募ることで、そのゲームが好きなユーザーに対してきめ細やかなサービスを提供するというスタイルの運営が生まれるかもしれません」
様々な要因が複雑に絡み合っている、モバイルゲームの”サ終”ラッシュ。しかし、優れたゲームが人気を集め続けていることも事実。生き残りをかけて、モバイルゲームはこれから様々な形で発展していくことだろう。
新田ヒカル(にった・ひかる)/
マネー評論家、スマホ評論家。「ワールド・ビジネスサテライト」、「スーパーニュース」などテレビ番組への出演多数。著書に『気づきの投資術―投資心理のメカニズムを知りマーケットに勝つ究極の智慧』など。
取材・文/桑元康平(すいのこ)
1990年、鹿児島県生まれ。プロゲーマー。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務などを経て、2019年5月から2022年8月まで、eスポーツのイベント運営等を行うウェルプレイド・ライゼストに所属。現在はフリーエージェントの「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロ選手として活動中。代表作に『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館新書)。