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〝畳は四角〟って誰が決めた?新たな魅力が見つかる「シン・畳」

2023.10.28

畳の歴史は古い。

奈良時代に編纂された『古事記』には、「菅畳八重」の言葉が見られ、畳の前身となる敷物があったものとされている。現在の畳に似たものが登場したのは平安時代だが、使うのは身分の高い人々に限られていた。

庶民にも畳が普及したのは、ずっと後の江戸時代も後期になってから。需要が高まったおかげで、各藩は特産物として生産を奨励した。明治時代以降も、畳のニーズはとどまることを知らず、戦後の高度経済成長期の持ち家ブームで頂点に達した。

しかし、洋風建築の増加に伴い、需要は減少していき、2021年の統計では926万枚と、最盛期の3分の1を切るほど低迷。若い世代だと、「畳をさわったことがない」という人もいるくらいだ。

小さな畳のある空間という試み

そんななか、畳の「復権」を目指す取り組みが、各所で行われている。例えば、畳の原料となる「い草」の収穫量が日本一の熊本県。ご当地の熊本県畳工業組合が開発したのは、「BIZMATT」という小さな畳。「クールビズは、足元から。」というキャッチフレーズがついているが、オフィスでのデスクワーク時に靴を脱いで、そこに足を載せるという趣向の製品。

これは、今までは廃棄されていた畳表の残材などを有効活用できないかと創案された。さらに、資源活用だけでなく、「畳の素晴らしさをもっと多くの皆様に知っていただきたい」という思いも込められている。組合によれば、「BIZMATT」は125枚製作して県内でモニターとして配布を行っている段階で、そこからB to Bの展開につなげたいという考えだそうだ。

もう1つ、これと似た小さな置き畳として合同会社貴香が販売したのは、「お猫様専用ミニ畳」。猫のくつろぎの場所というコンセプトの商品だが、「畳業界全体の衰退を少しでも食い止めたい」という思いが開発の原動力であった。今年8月クラウドファンディングで支援者を募り、目標額を上回る支援を得た。

床材という枠を超えた活用へ

もう1つ、畳文化の衰退に危機意識をもち、その利活用に頭をしぼって生まれたのが「たたみのみみ」。静岡市でプロダクトデザインに携わる(株)アンノットが、焼津市の松葉畳店と協働して生まれた。

これは、畳の消臭能力を生かしたインテリア製品で、畳の製造工程で廃材となる「みみ」を有効利用したもの。こちらは、アンノットが運営するECサイト「耕人」にて1210円で発売されている。

同様に、畳がもつ消臭性、吸湿性、弾力性に注目して製品開発を行っているのが、合同会社Liberato(リベラート)。畳の端材を用いた「畳ローファースリッパ」、「畳サンダルスリッパ」などを製作・販売している。

「人は1日に両足でコップ1杯分の汗をかく」そうで、これによるムレや臭いを防止するのに、畳という素材ははうってつけ。これに高品質レザーを組み合わせて、伝統とモダンを感じさせる製品に仕上がっている。

実用性のあるアートとして昇華する畳

次は、畳を生活用品の域を超えて、アートにまで昇華させた例を紹介しよう。

まずは、老舗インテリアメーカーである(株)イケヒコ・コーポレーションと、大型3Dプリンター開発製造の(株)ExtraBoldによる「TATAMI ReFAB PROJECT」を挙げたい。これは、「畳を現代の暮らしに編み直すプロジェクト」として、粉砕した廃棄い草と酢酸セルロースを混ぜてペレット化したものを材料とし、3Dプリンターで造形した家具シリーズとなる。

家具のデザインは、複数のプロダクトデザイナーからなるラボ「HONOKA」が担当した。これらの作品は、今年4月にイタリアで開催された「ミラノサローネ国際家具見本市2023」内のサローネサテリテ部門に出展。グランプリ「Salone Satellite Award 1st Prize」を受賞したことで内外の話題をさらった。

もう1つは、明治2年創業の山田一畳店(岐阜県羽島市)の、その名も「すごい畳」。発案したのは、5代目店主の山田憲司さん。1300年以上の歴史のなかでずっと四角形であった畳の概念を打破したもので、下の写真のように超絶的な技巧をこらした製品となっている。

山田さんは、店を継いだときから、このアイデアを持っていたわけではなかった。ある日、ワンボックスカーの後部スペースを畳敷きにしたいとの注文を受けた際、その形状に合うよう畳を製作したことで、「畳は四角」という固定観念が崩れた。

そこから考えを広げて、畳の織り目の縦横をフレキシブルに配置するアイデアに行きつく。
畳は、織り目の角度によって色が違って見える特徴がある。これは畳の色自体が変わるわけではなく、日の光の当たり加減によるもの。そのため、同じ畳でも、朝と夕刻とでは見え方が違うことがある。山田さんは、「すごい畳」の発注を受けると、畳を敷く場所を訪ね、入念に光の入り方を調べてから設計に入る。かなり神経と頭を使う作業であることは想像に難くなく、身体も使うので筋肉痛は毎度のことだという。

当初は注文も入らず鳴かず飛ばずであったが、SNSの口コミで徐々に知られるようになり、各方面から制作の依頼が来るようになったのは最近のこと。今年の7月には、京都の名刹「光明院」で、「龍の畳」を含む作品が展示された。このとき、枯山水の庭園に水を飲みに来た鶴というコンセプトで、新作「鶴休飲水図」(下写真)も披露された。

「すごい畳」をある種の起爆剤として、畳という伝統文化の認知度を高めるべく奮闘する山田さんだが、今後の展望を尋ねると次のように答えた。

「目標はベルサイユ宮殿で個展を開催することです。世界中の建築物の中で、ベルサイユ宮殿は特に豪華で華やかな建築物だと思います。壁画や天井画などの装飾やさまざまな高級建材が使われていますが、畳は使われていません。世界一華やかな建築物にこの畳を合わせたらどのような空間を演出できるか、見る人がワクワクするような展覧会を実現させたいです」

近年、持続可能な社会をキーワードとして、伝統的なものの価値を見直すムーブメントが随所で起きている。畳はその代表例として、新たな活用法による普及が期待される。

取材・文/鈴木拓也

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