素直な心が、真実をたぐり寄せる
本当に、粘着部は、花を訪れる昆虫を呼び寄せるのだろうか。
白根くんは、Tの字の形をしたガラス管を用意した。そして、Tの字の右側に粘着部のある茎、左側に粘着部のない茎を置いて、T字の下からヒラタアブという小さなアブを入れて左右どちらにいくかを選ばせるという試験を行った。その結果、粘着部のある方を選ぶアブが多かった。左右を入れ替えても、やはり粘着部を選ぶ虫が多かった。
次に、粘着部のある茎と花とを比べると、花の方を選ぶ虫が多かった。
最後に、粘着部のある茎と花をセットにして、粘着部のない茎と花をセットにして比べてみると、粘着部のある茎の方を選ぶ虫の方が多かった。
どうやら、粘着部は、昆虫を引き寄せる補助的な役割を持つことは間違いなさそうだ。もしかすると、粘着部にハエが多いのは、誘引されてしまった結果なのかもしれない。
しかし、昆虫を呼び寄せるだけであれば、粘着部でなくても良さそうである。
結局、粘着部が何のためにあるのかは、現在でもわからずじまいである。
私にしてみれば、粘着部が昆虫を引き寄せるというのは、思いも寄らない話である。しかし、白根くんは、先入観なく、粘着部のある茎に昆虫が多く集まっているという事実を見抜いた。
指示待ち型である彼らは、指示どおり動く。その指示にどのような意味があるのか、その指示は正しいのかどうか、あまり深く考えていないように見える。
しかし、白根くんの素直な心は、真実を素直に見る力に長けているかも知れない。
「指示待ち型の人間はあなどれない」──これが、私が白根くんから学んだことである。
「指示はまだですか?」「早く指示を下さい」「指示がないと動けません」
そんな言葉を繰り返し、「アグレッシブな指示待ち型」と先生たちを呆あきれさせていた白根くん。根っからの指示待ち型の彼は、いったい、どんな社会人になるのだろう。
彼は、ちゃんと自分にぴったりの就職先を見つけてきた。
「自衛隊」である。
聞けば、小さい頃から、興味があったという。
自衛隊では、指示どおり動くことが求められる。
「この指示にどんな意味があるのだろう?」、そんなことを考えてしまうようでは、迅速に行動することができないし、統率も取れない。
「指示がないと動けません」が信条の彼には、もってこいの仕事である。
誰にも天職というものは、あるものなのだ。
私は冷め切ったブラックコーヒーを飲み干した。
☆ ☆ ☆
いかがでしたでしょうか?
雑草に生き方を教えられたと語る稲垣氏。「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」の中で頑張りすぎて心がポキンと折れてしまった学生に、氏がかける言葉は「人生で何が大切なのか」を教えてくれます。
図鑑や教科書には載っていない、雑草のスゴい生存戦略も必見です。
「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館
文/稲垣栄洋(いながき ひでひろ)
静岡大学農学部教授。静岡県出身。岡山大学大学院農学研究科修了。博士(農学)。農林水産省、静岡県農林技術研究所等での勤務を経て現職。
『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP文庫)、『生き物の死にざま』(草思社文庫)、『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『大事なことは植物が教えてくれる』(マガジンハウス)、『子どもと楽しむ草花のひみつ』(エクスナレッジ)、『面白すぎて時間を忘れる雑草のふしぎ』(王様文庫)、『植物に死はあるのか』(SB新書)など、著書は150冊以上にのぼる。「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなるなど(日能研調べ)小中学生にも愛読者が多い。