静岡大学農学部教授として日々教鞭をとり、雑草学研究室で教え子たちと接している稲垣栄洋氏は「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなる(※日能研調べ)など、小中学生にも愛読者が多い。そんな稲垣氏がライフワークである雑草と、イマドキな教え子たちを絡めてつづる『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』は自身を題材として描く“アンチ雑草魂”エッセイです。
頑張りすぎたり、細かすぎたり、要領が良くなかったり……不器用だけどまじめで実直な彼らとの日々は、常識に凝り固まりがちな教授のアタマと心をゆっくり溶かし、やがて気づかせてくれます。指示待ち学生が適確な指示を与えられたときに発揮する大きな力や、好きなことしかやらない学生の視野の狭さがニッチな発見を生むことに。
効率を求めムダを省くのが優先される時代に、自分の武器をどう見つけるのか?
著者は苦労している割に報われない若者に、どんな言葉をかけるのか?
生きづらさに悩むZ世代、Z世代との付き合いに戸惑う中高年へ。「立ち上がらない」という生き方戦略を伝えてくれる一冊です。今回はその中から一部を抜粋してお届けします。
「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館 1540円
※本稿は、稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)の一部を再編集したものです
〈11〉ムシトリナデシコと真実を見抜く力──指示待ち型学生が選んだ驚きの就職先
私は、長年、私の研究室のメンバーたちが気になっていたムシトリナデシコの課題を白根くんに与えてみることにした。彼はすでに卒業研究として、マツヨイグサの研究を行っているから、本当はやらなくても良い追加の研究である。
しかし、私が相談すると「嫌だ」というわけでもなく、「ぜひやりましょう」というわけでもなく、研究に取り組んでくれることになった。それが「イヤイヤ」だったのか、「喜んで」だったのかは、私にはわからない。
ムシトリナデシコは、茎に帯状に粘液を分泌するところがある。この粘液にハエなどの小さな虫がくっついていることがある。そのため、「虫取り」と名付けられているのだ。
一見すると食虫植物のようにも見えるが、ムシトリナデシコは、食虫植物ではない。
それならば、どうしてムシトリナデシコは、茎に虫が付着するような粘着物質を出しているのだろうか。
これは大いなる謎である。
江戸末期〜明治時代に鑑賞用として日本にもたらされたものが各地で野生化したといわれるムシトリナデシコ。コメット / PIXTA(ピクスタ)