静岡大学農学部教授として日々教鞭をとり、雑草学研究室で教え子たちと接している稲垣栄洋氏は「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなる(※日能研調べ)など、小中学生にも愛読者が多い。そんな稲垣氏がライフワークである雑草と、イマドキな教え子たちを絡めてつづる『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』は自身を題材として描く“アンチ雑草魂”エッセイです。
頑張りすぎたり、細かすぎたり、要領が良くなかったり……不器用だけどまじめで実直な彼らとの日々は、常識に凝り固まりがちな教授のアタマと心をゆっくり溶かし、やがて気づかせてくれます。指示待ち学生が適確な指示を与えられたときに発揮する大きな力や、好きなことしかやらない学生の視野の狭さがニッチな発見を生むことに。
効率を求めムダを省くのが優先される時代に、自分の武器をどう見つけるのか?
著者は苦労している割に報われない若者に、どんな言葉をかけるのか?
生きづらさに悩むZ世代、Z世代との付き合いに戸惑う中高年へ。「立ち上がらない」という生き方戦略を伝えてくれる一冊です。今回はその中から一部を抜粋してお届けします。
「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館 1540円
※本稿は、稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)の一部を再編集したものです
【みちくさコラム】植物の成功を司る3つの要素
植物の成功の要素は、CとSとRの3つに分かれると考えられている。
Cは、「競争(Competition)の強さ」である。
自然界では、常に激しい競争が存在する。競争に勝った者は生き残り、競争に敗れた者は滅んでいく。それが自然界の鉄則である。
それは、植物の世界であっても同じである。
植物の成長に必要なものは、光と水と土の中の栄養である。植物はこの資源を奪い合って激しく競争をしているのだ。
森の中はたくさんの植物が競い合っている場所である。森に生える大きな木は、競争に強い植物である。
強い者が生き残る、それが自然界の鉄則である。
しかし、競争に強いことがすべてではないことが、自然界の面白いところだ。
SとRは、他の強さである。
Sは「ストレス(Stress)に対する強さ」である。
「ストレス」という言葉は、人間だけのものではない。植物にもストレスはある。
光や水が足りなかったりすることは、植物にとってはストレスだ。
ストレスに強い代表的な植物は、サボテンである。
サボテンは、雨の少ない砂漠に生えている。そこで求められるのは、競争の強さではない。じっと雨が降るのを待ち続ける忍耐強さなのである。
Rは、「ルデラル(Ruderal)」である。Ruderalは直訳すると「荒地に生きる」という意味である。「荒れ地に生きるたくましさ」がルデラルである。
ルデラルは「変化を乗り越える強さ」であると考えられている。
しかもその変化は、秋が終われば冬になるというような決まった変化ではなく、何が起こるかわからないという予測不能な変化である。
そして人間が自然を改変して作り出した環境に生える雑草は、このルデラルの典型であるとされているのである。
雑草イコール〝何でもない草〟と私たちはとらえがちである。そうではなく、予測不能な変化を乗り越えられる植物だけが、雑草になることができるのだ。
* * *
強い者が生き残る、それが真実である。
しかし、競争に勝つことだけが強さではない。
じっと我慢をする強さもあれば、変化を乗り越える強さもある。
本当は、色々な強さがあるのだ。
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いかがでしたでしょうか?
雑草に生き方を教えられたと語る稲垣氏。「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」の中で頑張りすぎて心がポキンと折れてしまった学生に、氏がかける言葉は「人生で何が大切なのか」を教えてくれます。
図鑑や教科書には載っていない、雑草のスゴい生存戦略も必見です。
「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館
文/稲垣栄洋(いながき ひでひろ)
静岡大学農学部教授。静岡県出身。岡山大学大学院農学研究科修了。博士(農学)。農林水産省、静岡県農林技術研究所等での勤務を経て現職。
『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP文庫)、『生き物の死にざま』(草思社文庫)、『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『大事なことは植物が教えてくれる』(マガジンハウス)、『子どもと楽しむ草花のひみつ』(エクスナレッジ)、『面白すぎて時間を忘れる雑草のふしぎ』(王様文庫)、『植物に死はあるのか』(SB新書)など、著書は150冊以上にのぼる。「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなるなど(日能研調べ)小中学生にも愛読者が多い。