非びらん性胃食道逆流症は食道腺がんのリスク因子でない可能性
胃酸が喉の方へ逆流してくる「胃食道逆流症(GERD)」は食道腺がんのリスク因子とされてきたが、内視鏡検査で食道内にダメージ(びらん)が認められない場合は、発がんリスクを高めないことを示唆するデータが報告された。
カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDag Holmberg氏らの研究結果であり、詳細は「The BMJ」に2023年9月13日掲載された。
この研究の対象は、1987~2019年に、デンマーク、フィンランド、スウェーデンの3カ国で、GERDのため入院または専門外来で治療を受け、内視鏡検査が行われていた18歳以上の全ての成人患者48万6,556人。
このうち、びらんが確認された「逆流性食道炎」が20万745人、びらんが確認されなかった「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」が28万5,811人だった。両群を最長31年間追跡して、GERDでリスクが上昇するとされている食道腺がんの罹患率を比較検討した。
NERD群では208万1,051人年の追跡で228人が食道腺がんに罹患し、10万人年当たり罹患率は11.0だった。これは、一般集団の罹患率と同等であり〔標準化罹患比(SIR)1.04(95%信頼区間0.91~1.18)〕、追跡期間の長い患者群でもリスク上昇は認められなかった〔15~31年追跡した患者群のSIRが1.07(同0.65~1.65)〕。
一方、逆流性食道炎群は175万249人年の追跡で542人が罹患し、10万人年当たり罹患率は31.0であり、一般集団よりもハイリスクであることが確認され〔SIR2.36(2.17~2.57)〕、追跡期間が長いほどリスクがより高くなる傾向も認められた。
この結果に基づき著者らは、「NERD患者の食道腺がんリスクは一般集団と変わらないことが明らかになった」と結論付けている。ただし、性別で分けて解析した場合、NERDであっても女性ではリスクがやや上昇することも示された。
具体的には、男性NERD患者のSIRは0.93(0.79~1.09)と非有意であるのに対して、女性患者は1.38(1.08~1.73)であって、一般集団よりもハイリスクだった。
とはいえ、この点についてHolmberg氏は、「臨床的にそれほど意味があることではないと思う」としている。その理由は、食道腺がんの85%は男性に発生し、女性の罹患リスク自体が非常に低いためだという。
以上を根拠としてHolmberg氏は、「GERDの症状のために内視鏡検査を受け、びらんが認められずにNERDと診断された人は、将来の食道腺がんを心配する必要はない」と話している。
この研究結果に対して、米国の栄養と食事のアカデミーの元会長で食品栄養コンサルタントのConnie Diekman氏は、「食道にびらんのない大半のGERD患者にとって、大変喜ばしいニュースと言えるのではないか」と論評している。
同氏は、「私自身もこれまで多くのGERD患者を治療してきた。GERDは従来、食道腺がんの潜在的なリスク因子と見なされていたからだ」と話す。
またDiekman氏は、「今回の研究と同じ結果が他の研究でも再現された場合、初回の内視鏡検査でびらんの所見がないことが確認されたNERD患者に対しては、がんの早期発見目的で定期的に検査を繰り返す必要がなくなるのではないか。それは明らかに医療コストの削減につながり、患者負担も軽減される」と述べている。
ただし、患者へのアドバイスとして、「自分のリスクについて医師に相談した上で、最善だと思う方法を選ぶべきだ」と付け加えている。(HealthDay News 2023年9月15日)
Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.
Photo Credit: Adobe Stock
(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.bmj.com/content/382/bmj-2023-076017
構成/DIME編集部