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若手の成長を促す〝あえて指導しない〟指導法

2023.11.11

静岡大学農学部教授として日々教鞭をとり、雑草学研究室で教え子たちと接している稲垣栄洋氏は「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなる(※日能研調べ)など、小中学生にも愛読者が多いそんな稲垣氏がライフワークである雑草と、イマドキな教え子たちを絡めてつづる『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』は自身を題材として描く“アンチ雑草魂”エッセイです。                 

頑張りすぎたり、細かすぎたり、要領が良くなかったり……器用だけどまじめで実直な彼らとの日々は、常識に凝り固まりがちな教授のアタマと心をゆっくり溶かし、やがて気づかせてくれます。指示待ち学生が適確な指示を与えられたときに発揮する大きな力や、好きなことしかやらない学生の視野の狭さがニッチな発見を生むことに。

効率を求めムダを省くのが優先される時代に、自分の武器をどう見つけるのか? 

著者は苦労している割に報われない若者に、どんな言葉をかけるのか?

生きづらさに悩むZ世代、Z世代との付き合いに戸惑う中高年へ。「立ち上がらない」という生き方戦略を伝えてくれる一冊です。今回はその中から一部を抜粋してお届けします。

「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館 1540

※本稿は、稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)の一部を再編集したものです。

【みちくさコラム】私のラーメンを伝えたいのではなく、学生と新しいラーメンを作りたい

 私が学生を教えないのには理由がある。

 たとえばラーメン屋の師匠が弟子に教える場面を考えてみよう。

 師匠が秘伝のレシピを事細かく弟子に教えたとしたらどうだろう。

「このラーメンはまだまだだな、70点」「まぁ合格だ80点」と、師匠のラーメンを超えることはない。

 しかし、ラーメンの基本や調理の技術だけ教えて、ラーメンの作り方は任せてみる。そうすれば、師匠には思いつかないような具材を使うかも知れないし、まったく違う味のスープを作るかも知れない。

 そうなれば、師匠も腕の見せ所だ。いっしょに味見をして、意見を交わし、弟子が失敗したら、いっしょに悩み、いっしょに改善策を考えるのだ。

 研究も同じである。

 結局、私は私のラーメンを伝えたいのではなく、学生といっしょに新しいラーメンを作りたいのである。

 必要以上に私が教えると、私のイメージする100点に対して、90点や80点の研究ができあがる。100点を超えることはなく、ここが足りないとか、ここがまだまだとか減点したくなる。

 しかし、私が必要以上に与えずに、学生自身が考えると、私の思いつかないようなアイデアが出てくることもあるし、思いもよらない方向に研究が進むこともある。私が思う枠をはみ出して、120点とか、150点とか、時には200点の研究ができあがってくるのだ。

 そんなすごい研究ができる学生を、私の枠の中に収めてしまうことは、私が学生の成長を邪魔していることに他ならない。

「ライス」には米という意味だけでなく、植物のイネという意味もある。

 田んぼではイネの背丈を超えて成長する雑草も多い。

 学生たちには、「イネ(ライス教授)を超えて成長しろ」と繰り返し言っている。

* * *

 もちろん、私に言われるまでもなく、多くの学生はイネを超えて成長してゆく。

 そんな学生の成長を見るのが、私は何よりうれしい。そして、成長した学生たちの姿を思い浮かべただけで、最高にブラックコーヒーが美味しいのだ。

* * *

 私だけではない。

 雑草学を研究する先生方は、学生にあれこれ指導しない傾向にあるように思う。

 そして、学生の意志を尊重し、たとえ学生であっても一人前の研究者として認めてくれるところがある。

 私の学生時代の恩師もそうだったし、若い頃、学会等でお会いして指導いただいた先生方も、誰もがそんな雰囲気だった。

 それは「雑草学」という学問が持つ特徴が関係しているように私は思う。

* * *

 思い出すのは、私が学生として初めて学会で発表をしたときのことである。

 緊張しながら、しどろもどろで発表をしていると、スーツ姿の大人たちが手を動かしているのが壇上から見えた。驚くことに私の発表をメモしているのだ。

 まるで学生の私の方が先生で、反対に先生方が学生になってしまったかのようだ。

「おもしろい発表だったね〜」

 発表を終えた懇親会では、ある年配の男性が名刺を渡しながら、私に質問をしてきた。

 その名刺を見て、驚いた。

 私がいつも読んでいる雑草学の教科書を書いた大先生である。まさに有名人だったのだ。

 そんな大先生からいただいた名刺は、アイドルのサインくらいうれしかった。

 もっともその名刺は、知らない間にどこかへ行ってしまったが、名刺をいただいたときの感激だけは、今でもずっと宝物のまま残っている。

 その経験があったので、私は学生を見ると、名刺をばらまいている。私の名刺をもらってもうれしくないことはわかっているのだが、マネをせずにいられないのだ。

 しかし、もっと驚いたことがある。

 その先生からいただいた質問は、私にとってはとても簡単なことだったのだ。正直に告白すると「大先生なのに、そんなことも知らないのか」と思ったほどだ。

 もっとも、考えてみればそれは当たり前のことである。

 雑草は日本に生えている主なものだけで500種以上ある。著名な研究者だからと言って、そのすべての生態を熟知しているわけではない。研究されていない雑草も山ほどある。

 一方で、学生は研究テーマの雑草を毎日、観察している。毎日見ているその雑草については、学生の方がくわしいに決まっているのだ。

 そのため、雑草学会では、学生の研究をすごく尊重してくれる雰囲気がある。

 私が学生の頃は、学会に参加する先生方は、学生たちに「ミスター○○、ミス○○になれ」とおっしゃっていた。○○には、その学生の研究テーマの雑草名が入る。たとえ学生であっても、その研究の第一人者となれ、ということなのだ。

 そして、学生たちが当たり前のように研究発表をするのを、著名な先生方が一生懸命メモしたり、当たり前のように教えを請うたりしている。

 私は、そんな雑草学会の雰囲気が、好きである。

 そして、あの大先生のように、知ったかぶりをすることなく、素直に学生に質問できる先生であり続けたいと思う。

☆ ☆ ☆

いかがでしたでしょうか? 

雑草に生き方を教えられたと語る稲垣氏。「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」の中で頑張りすぎて心がポキンと折れてしまった学生に、氏がかける言葉は「人生で何が大切なのか」を教えてくれます。

図鑑や教科書には載っていない、雑草のスゴい生存戦略も必見です。

「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館

文/稲垣栄洋(いながき ひでひろ)
静岡大学農学部教授。静岡県出身。岡山大学大学院農学研究科修了。博士(農学)。農林水産省、静岡県農林技術研究所等での勤務を経て現職。『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP文庫)、『生き物の死にざま』(草思社文庫)、『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『大事なことは植物が教えてくれる』(マガジンハウス)、『子どもと楽しむ草花のひみつ』(エクスナレッジ)、『面白すぎて時間を忘れる雑草のふしぎ』(王様文庫)、『植物に死はあるのか』(SB新書)など、著書は150冊以上にのぼる。「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなるなど(日能研調べ)小中学生にも愛読者が多い。

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