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雑草学研究室で見つけた「立ち上がらない」という生き方戦略

2023.11.07

静岡大学農学部教授として日々教鞭をとり、雑草学研究室で教え子たちと接している稲垣栄洋氏は「国私立中学入試・国語 最頻出作者」1位に連続してなる(※日能研調べ)など、小中学生にも愛読者が多いそんな稲垣氏がライフワークである雑草と、イマドキな教え子たちを絡めてつづる『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』は自身を題材として描く“アンチ雑草魂”エッセイです。                 

頑張りすぎたり、細かすぎたり、要領が良くなかったり……不器用だけどまじめで実直な彼らとの日々は、常識に凝り固まりがちな教授のアタマと心をゆっくり溶かし、やがて気づかせてくれます。指示待ち学生が適確な指示を与えられたときに発揮する大きな力や、好きなことしかやらない学生の視野の狭さがニッチな発見を生むことに。

効率を求めムダを省くのが優先される時代に、自分の武器をどう見つけるのか? 

著者は苦労している割に報われない若者に、どんな言葉をかけるのか?

生きづらさに悩むZ世代、Z世代との付き合いに戸惑う中高年へ。「立ち上がらない」という生き方戦略を伝えてくれる一冊です。今回はその中から一部を抜粋してお届けします。

「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」
稲垣栄洋/小学館 1540

※本稿は、稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)の一部を再編集したものです

ヒメタカサゴユリのど根性──ちいかわな女子学生、新品種を作る

 授業が終わって、大好きなブラックコーヒーを飲んでいると授業を聞き終わった井西さんがやってきた。

「ライス教授、私、雑草学研究室に入って、ちいかわな研究、したいです」

「あらたまって、ライス教授って呼ばれるとかえってバカにされてる感じだから、とりあえず『先生』でいいよ」

「先生、私、雑草学研究室に入って、ちいかわな研究、したいです」

 おそらく、色々と説明しなければならないだろう。

 まず、「ちいかわ」(※)は、女の子に人気の漫画のキャラクターで、聞くところによると「なんか小さくてかわいいやつ」の略称らしい。井西さんが言う「ちいかわな研究」の意味は、後でじっくりと説明することにしよう。

 ライス教授とは、私のことである。もちろん、本名ではない。

 外食に行くと、いつもライスかパンか迷ってしまう。

 いや、本当は米が大好きなのだ。しかし、最近は米の味にこだわらない店も増えてきた。そして、私は何よりまずい米が大嫌いなのだ。

 好きな食べ物は美味しいご飯、嫌いな食べ物は美味しくないご飯。いつも米が美味しくないと言ってはパンを食べているので、人は私のことを米嫌いだと思っているが、私は本当の米好きなのだ。「ライスにしようか、どうしようか」「やっぱりライスにすれば良かったか」、「ライスライス」とぶつぶつひとり言を言っているらしいので、学生たちは私をライス教授と呼んでいるようだ。

 そして、私の研究室が雑草学の研究室なのである。

「雑草学なんて、あるんですね」と驚かれることがある。

「雑草学」という言葉は、まるでUFO学やアイドル学のようなユニークな学問に聞こえるのだろう。

 しかし、考えてみて欲しい。

 たとえば、農業や緑地を管理する上でもっとも問題となるのが雑草の管理である。雑草を研究することは、ウイルスや害虫を研究するのと同じくらい重要なことなのだ。

 実際に、日本には雑草を研究する人が何千人もいるし、「雑草学会」という学会も世界中にある。

 それでも、「雑草学」が変わった学問だと思われてしまうのは、「雑草」という言葉が、あまり科学的な響きがしないからだろう。

 しかし、雑草学の先人たちは、この「雑草」という言葉に、こだわってきた。

 聞くところによると、かつては「害草学」にしてはどうか、と提案されたことがあるらしい。ただし、雑草の中には有害なものもあるが、害のないものもある。だから、害草ではない、と「雑草学」という名前が守られたという。

「雑草学」は世界中にあるが、英語では「weed science」という。これは直訳すると、「雑草科学」だ。

 しかし、先人たちは雑草科学とは呼ばなかった。

 サイエンスは一般的に自然科学を意味する。しかし、雑草学は単に植物を研究するだけの「植物学」でない。そこには常に人間がいる。それは社会科学であり、人間科学でもあるのだ。さらに人々は雑草と戦いながらも常に雑草と向き合ってきた。春の七草や草餅のように雑草を暮らしの中に取り入れてきたり、詩歌に詠んだり絵画に描いたりしてきた。

 雑草学は単なるサイエンスではない。「雑草学」は「雑草学」だ、と先人は主張した。こうして、「雑草学」という、あまり科学的でない言葉が大切に守られてきたのだ。

 私はそんな「雑草学」という言葉が好きである。

 そして僕らは、そんな雑草学を学び、研究する「雑草学研究室」なのだ。

 私の研究室には、大学3年生が分属されてくる。

 井西さんがやってきた年の秋、彼女は、希望通り雑草学研究室に分属された。

 私は、研究室にやってきた学生たちと、まず一対一で面談をする。学生の人となりを見たり、どんな研究をしたいのか希望を聞いたりするのが、その目的だ。

 一対一なので、かつては「ワンワンタイム」と呼んでいたが、あるとき分属された学生が全員ネコ派だったので、この呼称はなくなった。今は163ページで後ほど紹介する倉くら貫ぬき義人さんに教えていただいた「雑相」という言葉を使って「雑相タイム」と呼んでいる。雑相タイムは、雑な相談、あるいは雑談まじりの相談という意味だ。研究室にやってきた学生にとって一対一の面談というと、怖いイメージがあるが、「雑談しましょう、相談しましょう」というニュアンスを含んだ「雑相タイム」という呼び方の方が、学生たちも話しやすいようだ。

 雑草の研究には大きく3つの分野がある。

 ひとつ目は「雑草防除」である。何しろ雑草は邪魔者だ。雑草を防除することが雑草学のもっとも大切な役割である。

 2つ目は、「雑草の生態」である。私たちに身近な雑草だが、じつは植物としては特殊な存在である。雑草が生える環境は、人間が作り出した特殊な環境である。雑草はその特殊な環境に適応して、特殊な進化を遂げた植物なのだ。

 雑草を防除するためには、まず敵である雑草の特徴を解明しなければならない。特殊な進化を遂げた雑草の特殊な性質を明らかにすることも、雑草学の大切な研究テーマである。

 そして、3つ目が「雑草の利用」である。雑草はやっかいな存在である。しかし、雑草の持つ特殊な性質は、うまくすれば利用価値があるかも知れない。

 やっかいな雑草も、味方につければ心強い存在なのだ。

※イラストレーターのナガノさんがTwitterで連載している漫画『なんか小さくてかわいいやつ』が講談社にて2021年に『ちいかわ』のタイトルで書籍化された。なんか小さくてかわいいやつ=通称「ちいかわ」たちが繰り広げる、楽しくて、切なくて、ちょっとハードな日々の物語。2022年からフジテレビ系でテレビアニメ化も。

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