ゲーテの色彩学
ドイツの詩人ゲーテ(1749-1832)は、ニュートンとは異なる方法で色彩の研究を行いました。
ニュートンがカメラのように科学的に色彩を分析したのに対して、ゲーテは人間の目のように順応していく色彩について論じています。
たとえば暗い部屋から外の明るい世界に出た場合、それまで闇に慣れた目が光にあたると眩しく感じますが、徐々に目が慣れていきます。
反対に明るい部屋から外の暗い世界に出た場合、はじめは何も見えなくても徐々に目が慣れて周囲が見えるようになります。
これと同じように、色付きの赤いサングラスをした場合でも、徐々に目がサングラスの赤い色調に慣れていきます。なぜなら、目が順応して色のバランスを調整することで、違和感を感じなくなるからです。
このとき、目は赤に対抗するように「緑色」を作り出すことで、赤い色を消しているとゲーテは考えました。実際、急に赤いサングラスを外すと緑色の世界が広がったように感じるはずです。
ゲーテによるロウソクの青い影の実験
芸術家ゲーテの詩的ともいえる補色を証明する実験が「ロウソクの青い影の実験」です。
「白い紙の上に火のついたロウソクを置き、ロウソクと夕日の間に1本の鉛筆を立てると、夕日に照らされた鉛筆の影は暖かい黄赤に見えるのに対して、ロウソクに照らされた鉛筆の影は青く見える」
ゲーテはこのように発言していますが、この青はどこで生まれるのでしょうか?
このとき、ゲーテは黄赤に対して目のなかに「青色」を作り出していることを、美しく提示しています。
この現象こそ補色であり、人間の目は反対の色にひきつけられる「視覚の法則」があることをゲーテは見抜いていたのです。
色彩を感じるアルチュール・ランボーの詩「母音」
詩の世界にも色彩を感じる作品があります。
それがフランスの詩人アルチュール・ランボー(1854-1891)が発表した「母音」です。
「Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青
母音たちよ、いつかおまえたちの秘められた誕生を語ろう。」
このように詩がはじまりますが、
ランボーが生きた時代、白には全ての色が含まれると考えられていました。
つまりAは黒、Eは白の意味のなかには、全ては黒と白から始まること、最初に「ゼロ」と「全」を提示しているのです。
ランボーはこの詩によって「母音の色を発明した」と発言し、アルファベットの母音に色を感じる共感覚の世界も表現しています。
あとに続く、赤、緑、青の三原色のアルファベットの構成は、芸術家ならではの天才的な色彩感覚と美意識に基づいた詩と色彩の圧倒的な世界が広がっています。