突然だが、2021年に発売された「ほぼ日ノオト」をご存じだろうか?世界三大デザイン賞の一つ、「Red Dot Design Award 2022」のプロダクトデザイン賞も受賞したノートだ。
一見普通のノートと思いきや、よく見ると長い横線と短い縦線を組み合わせた、不思議な構造になっている。
線がつながっていないのになぜか罫線に見えるこのノートは、デザイン心理学に基づいて作られたかつてない逸品。使用時に感じる心理的な威圧感やストレスを軽減してくれることで話題になった。
「ほぼ日」とタッグを組み、このノートを作ったのが、千葉大学工学部初のベンチャーとして創業した「BB STONEデザイン心理学研究所」。デザイン心理学という新しい学問領域を武器に商品のコンサルティングや空間開発の支援を行っている。
デザイン心理学って何?第一人者・日比野治雄先生に聞いてみた
ここで気になるのがデザイン心理学だ。デザイン×心理学の組み合わせなんて、今まで考えたこともなかったが物凄く気になったので、今回「BB STONEデザイン心理学研究所」の技術顧問で、デザイン心理学の第一人者・日比野治雄先生に難しい話をやさしく丁寧に教えていただいた。
―先生!デザイン心理学って、なんですか?
日比野「世にあるさまざまな商品の使いやすさや美しさ、安全性などを心理学・工学的観点から実験し、デザインを科学的に数値化して実証するという新しい学問のことです」
―なるほど…?
日比野「わかりました笑、では具体的にお話ししましょう。以前、弊社が作成した医薬品の新デザインパッケージがあるんですが、こちらをご覧ください」
日比野「これは以前のデザインよりも識別しやすく、しかも取り違えの可能性が低いデザインを検証して作ったものになるんですが…。弊社が検証したのは、見て欲しい会社名や製品名をいかに正確に早く見つけられるかの統計処理、そして、他製品との変化に気づくまでの時間の測定。これらの実験検証結果から見間違えの起きないデザインを考え、この形が完成しました。このように、心理学の観点から実験を経てデザインを生み出すのがデザイン心理学なんです」
なるほど。もう少し噛み砕いて言うと、単純に見た目のレイアウトや文字の大きさを感覚的な指標だけでデザインするのではなく、科学的な検証と実験を行った上で作り上げる。これが、デザインの数値化であり、デザイン心理学の真骨頂。
第一人者である日比野先生は、この手法でさまざまな分野のデザインを手がけている。
参考:https://www.bbstonedpu.com/works/62/
先に紹介した「ほぼ日ノオト」も先生の作品の一つ。罫線が特徴的だが、罫線に注目した理由とは?
日比野「今や大抵のノートには罫線がありますが、罫線のような一般的な幾何学的規則性を持つ刺激には不快感を持つ人もいます。ごく普通の人でもそのような傾向があるんです。しかも、大人より子供の方が視覚的ストレスの影響を受けやすいことがわかっています。そこで我々は、目にやさしく集中力も上がる使いやすいノートを作ろうと、新しい罫線の開発に取り組みました」
そんな新しい罫線は、一般的なものとは違い、「横線がつながっていない」。さらに、6.3mmごとに0.7mmのすき間があり、その下には0.5mmの「縦線」がマス目のガイドとして入っている。人間の目の錯覚を利用し、「線がつながっていないのに罫線に見える」デザインだ。
ここに、目の負担を和らげる秘密があるという。それは116人の被験者による実証実験でも証明されている。
日比野「実際に既存の罫線のノートと『ほぼ日ノオト』を使ってもらい、その際、アイカメラで目の動きを追ったり、脳血流分析による学習効果の検証や目のストレスを空間周波数分析と呼ぶ手法で計測しました。その結果、単純計算するときの正答率や速度で、既存の罫線によるノートを上回るなど、大きな効果があったんです」
ユーザーからは「罫線の圧迫感が少ない」、「文頭をそろえるのに便利」などのコメントが寄せられるなど、快適かつ伸び伸びと書ける革命的なノートは大きな反響を呼んだ。