日常会話でも耳にする機会の多い『赤の他人』とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?なぜ色の名前が入っているのか、気になる人もいるでしょう。赤の他人の『赤』とは何なのか、意味や由来、慣用句の使い方を紹介します。
「赤の他人」とは
よく使われる慣用表現の中に、『赤の他人(あかのたにん)』があります。『赤』はいったい何を意味してつけられているのでしょうか?慣用句の意味や対義語を紹介します。
完全に無関係の人を指す
他人とは、自分や自分が所属するコミュニティ、ある事柄に対して関わりのある人以外を指します。例えば、自分(個人)に対して、自分以外の全ての人は他人です。使用するシーンによっては、血縁関係のある人や親族以外の人を他人とすることもあります。
また、痴話げんかや家族問題などのニュースに対して「他人が知った風な口を利くな」と諫める声が上がることがあります。この場合は、事柄に対して関係のない人が「他人」です。
一方で、『赤の他人』は、縁もゆかりもない人のことをいいます。赤は基本色の一つです。混じり気のない色であることから、『全く』『完全に』という意味があります。
そのため『赤の他人』は、『自分とは全くの無関係である』という点を強調した言葉といえるでしょう。全くという意味に赤を使った表現として、『真っ赤な噓』などがあります。
「赤の他人」の対義語
『赤の他人』と反対の意味を持つ対義語には、どのようなものがあるのでしょうか?
単純に考えると、赤の他人の対義語としては『身内』が挙げられます。全く関わりがない他人に対して、身内は血縁や家族としてのつながりがあり、真逆の関係性といえるでしょう。
それ以外に、『親密』『懇意(こんい)』『蜜月』なども、親しい間柄を意味する言葉です。『昵懇の仲(じっこんのなか)』という慣用句もあり、非常に親しい間柄を意味します。
また『他人』の対義語に近い言葉としては、『当事者』も挙げられます。『関係者』も『他人』とは反対の意味を持ち、『組織やある事象に関わっている人』を指す言葉です。
「赤の他人」の由来
『赤の他人』という表現が使われるようになった由来として、いくつかの説があります。慣用表現にはいくつもの意図が絡み合っており、語源や由来を一つに定めるのは難しいですが、『赤』という色に共通するイメージや意味から、理由を確認していきましょう。
名詞の意味を強調する「赤」
慣用表現としての『赤』には、名詞を強調する意味があります。しかし現代人の感覚では、『赤』を強調とする理由はいまいち分かりません。
『赤』が使われている理由をひも解くために、辞書で『赤い』の意味を確認してみましょう。
「(「明(あか)い」と同語源) ① 赤い色をしている。朱、橙、桃色などを含めてもいう。② 赤みを帯びた茶色である。③ 美しい。きれいである。④ 急進的な思想をもっている。共産主義者である」
『赤い』にはさまざまな意味がありますが、『明い』と同語源であると書かれています。『明い』は古語で『明るい』を指す言葉です。
つまり、『赤』には『明白な』『明らかな』という意味が含まれており、慣用表現として使われるようになったと考えられるでしょう。
『赤』と『明』の語源が同一であるという学説には、国文学者佐竹昭広氏(1927~2008年)の『明暗顕漠』という考え方が反映されています。古代日本語における赤・青・白・黒の4色には性格があり、赤は『明』を指しているという説です。
仏教に由来する「あか」が語源
仏教用語の『閼伽(あか)』または『阿伽(あか)』は、仏前に供える水を指します。閼伽はサンスクリット語の『argha(アルガ)』の発音が変化した言葉です。
arghaには『価値あるもの』という意味があり、仏前に供える清らかな水や水を入れる器を表すようになったとされます。仏教用語の『閼伽』が『赤』を意味するようになり、また『水のように冷たい』という意味から『赤の他人』の語源になったとする説もあるようです。
しかし、サンスクリット語には『水』『冷たい』『無関心』といった意味はなく、慣用句との関連づけは俗説であると考える人もいます。
「赤」を使う単語例
『赤の他人』以外にも、『赤』を使った慣用句や単語は存在します。主な例を紹介しましょう。
赤の他人と同じような意味で使われる慣用句には、『真っ赤な嘘』があります。『真っ赤』には『明らかな』『明白な』といった意味が込められており、嘘であることが明らかである場合に使われる慣用句です。
『赤っ恥』や『赤裸(せきら)』にも、『赤』が含まれています。『赤っ恥』は多くの人の前でとても恥ずかしい思いをすることを意味し、『赤裸』は全く何も身に着けていない様子を表す言葉です。赤っ恥には『赤面する様子』、赤裸には『動物の皮がむけている様子』など、血色や赤色からの連想も考えられるでしょう。
「赤の他人」の使い方
赤の他人という言葉は、どのような使い方をするのでしょうか?一般的な使い方と例文や、言い換え表現を紹介します。
「赤の他人」の例文
『赤の他人』という表現は、どんなときに使うのでしょうか?
『他人』や『他の人』という言葉と比較すると、突き放すような無関心さを表したい場合によく使われる言葉です。一般的な例文を紹介します。
- 確かに、僕は彼女と以前付き合っていたけれど、今はもう赤の他人だ
- さすがに、赤の他人のためにそこまでして助けようとは思わない
- 赤の他人に、なぜ悪口を言われないといけないんだ
「赤の他人」の言い換え表現
『赤の他人』は、他人を強めた表現です。言い換えとして使える表現には、『見ず知らずの人』『よそ者』『部外者』などが挙げられます。
『見ず知らずの人』は全く知らない人を指し、赤の他人に近い意味で使える言葉です。
よそ者や部外者は、『特定の地域や組織と何の関わりもない人』という意味があり、赤の他人と同じようにやや冷たい印象になります。
さらに、これまで関係があった人と縁を切った場合、『赤の他人になった』と同じ意味で『絶縁した』と表現することも可能です。
構成/編集部