iPhoneはクアルコムのチップを継続
房野氏:クアルコムが、2026年までiPhoneにモデムチップを供給する契約を結んだようですね。
石川氏:アップルの発表会前に、3年間更新して2026年までiPhoneにクアルコム製のモデムチップが載ることを、クアルコムが発表しました。うがった見方をすると、ファーウェイが自分たちで5Gのチップを作り上げたこともあったので、クアルコムはますます中国に製品を売りにくくなる可能性がある。株価対策としてもアップルと仲良く付き合い、iPhoneにまだまだ製品が搭載されますよ、とアピールしたいという狙いがある。
アップルは自分たちでモデムを作ろうとしていますが、そう簡単にはできない。スマホのモデムって5G、4G、3G、下手したら2G、GSMまでつながらなくてはいけない。各キャリアごとにいろんな周波数帯があって、いろんな周波数と組み合わせるキャリアアグリゲーションでは何億通りものパターンがある。それをちゃんと安定してつながるようにしなくてはいけない。そういったノウハウを、クアルコムはたくさん持っている。アップルがそう簡単に作れるものではないと思います。諦めてもおかしくないくらい。4Gと5Gだけつながればいいということであれば、まだやれそうですけど、2Gや3G、色々なことを考えると、自社で作るのは難しいんじゃないかな。しばらくはクアルコムとの提携が続くんじゃないかなと思います。
石野氏:クアルコムの発表だと、2026年までの契約期間の最後の方は、ちょっと供給が減っているような感じなんですよね。それまでにアップルが自社製モデムを導入するんじゃないかっていう見方もできます。それが果たして性能がいいかどうかわかりませんが、iPadとかから載せる可能性はあるかなと。かつては、iPhoneもそうですが、インテル製モデムが載っていた時期もあるので。アップルはインテルから引き継いでいる技術も色々ある。毎年、噂サイトがiPhoneが自社モデム搭載かと言っていますけど、なかなか出ない。ただ、クアルコムの資料を見ると、100%Snapdragonモデムではないので、1、2年後にはアップル製モデムチップが出る可能性もあるかなって気がします。それがiPhoneに載るかどうかは、ちょっとわからないですけど。
法林氏:モデムは相当難しいですよ。最終的に誰もクアルコムに勝てなかった、という表現は変だけど、あれこれあったけど、最終的に落ち着いた形が今のSnapdragonで、ここから挽回してというのは相当大変。インテルが独インフィニオンからモデムチップ事業を買収して、作ろうとして頓挫したくらいなので。いくらアップルがiPhoneで儲けた会社だとか技術力があるとか言われても、モデムはCPUとは違うので、そんなに簡単にはいかないと思う。
房野氏:モデムはチップセットに組み込まれていないんですか?
石野氏:いませんね。
法林氏:今のところ外付けという形だけど、ただ、わからないですよ、本体を開いて見ていないので。中がどうなっているかわからないですけど、相当、アップル用に何かしているんじゃないかなって気はする。
房野氏:クアルコムが各社向けにカスタマイズしているということですか?
法林氏:基本的にSnapdragonは同じなので、あまりカスタムはないけれど、iPhone用に調整をしている可能性はある。例えば、Snapdragon 8 Gen 2 for Galaxyというチップセットもあるので、たぶん似たようなことをアップルは要求しているんじゃないかなって気がする。ただ、それが本当なのか、それとも全然違うのかはわからない。でも、モデムなので。CPU+モデムという形とは、ちょっと違う。
房野氏:今のiPhoneは、100%クアルコムのモデムなんですか?
石野氏:現状はそうなんですけど、クアルコムの資料だと、2026年の採用比率が20%になっているので、それまでにアップルが自社チップを製品化する可能性もある。ただ、毎回置き換えると言われてきながら、ずっと提携が延長されいてるので、クアルコムにとって予想が良い意味で外れる可能性もある。
石川氏:アップルは、クアルコムのチップを減らしていきますと言っているかもしれないけど、クアルコムはそうは思っていない、みたいな。
法林氏:経済的に合理性があるかどうかがすべて。自社製チップを作るために人もお金もかけるけど、それでどれだけコストが下がるか、みたいな話がある。ただ、1つ言うと、ほぼありとあらゆるものにモデムが搭載される時代になっていくので、そうすると、できるだけ自分のところで作るのがいいかなというのはある。現状ではスマホ以外だとタブレットくらいしかないけど、〝AirPods第6世代〟ぐらいには、もしかしたら6Gとか7Gのモデムが入ってるいるかもしれないし、そうなった時にモデムをどうするのかって話になると、「両方の耳にモデムが入るので、今までの2倍の値段になります」ってクアルコムに言われるなら、じゃあ自分たちで作ろう、みたいな話もありえなくはない。それがモバイルデータ通信のモデムなのかというのも、ちょっと微妙だけど。
石野氏:ただ、所詮って言っちゃうとアレなんですけど、通信じゃないですか。データを運ぶパイプを制御するためのチップであって、アプリケーションプロセッサと違って、何か画期的なユーザー体験を生み出せることがないので、アップルがそんなに自作にこだわっている意味がわからないんですよね。
法林氏:そう。僕は利がないと思う。単純に経済的な部分かなと思った。
石川氏:自社モデムをやるぞ、やるぞと言って、クアルコムに対してプレッシャーをかけて、導入コストを抑える、みたいなことが一番の目的かもしれないですね。自社モデムは一切やりませんって言っちゃうと、クアルコムの言いなりになっちゃうので。
房野氏:モデムでクアルコムのライバルといえば?
法林氏:今だとメディアテックかな。
房野氏:メディアテックのチップセットが搭載されているiPhoneはないと。
法林氏:ないというか、採用されていない。将来的にどうなるのかはわからないけど、今のところ、メディアテックはミッドレンジが中心なので、iPhoneは難しいかな。
房野氏:日本のiPhoneがミリ波に対応しなかった理由は?
石野氏:市場性があるのかどうかと、アメリカのiPhoneは、ミリ波用アンテナの切り欠きが側面にありますよね。ミリ波に対応させるとアンテナデザインをだいぶ変えなくてはいけない。本当は、アップルはあまりミリ波をやりたくない感じはするんですよね、なんとなく。
石川氏:環境のためにミリ波はやめます、とか言わないかな(笑)
法林氏:環境に優しくないから(笑)
石野氏:あんなにたくさん基地局を建てるのは環境に良くないと(笑)