日本人には受け入れられやすい代替肉
日本人は大豆に親しみがあるため、植物由来の代替肉は抵抗なく受け入れられる素地をもっている。カイコやザザムシなど昆虫食の歴史もある。嗜好に合う点は、今後の普及に大きく影響してくるだろう。
さらに、環境面からも、肉類の生産は負荷が大きい。肉の生産自体が、温暖化を始め生物多様性の喪失、海洋生態系の崩壊といった自然環境に対して大きなダメージを与えている側面もある。
特に水資源の負荷は大きい。1キログラムの生産に使用される水の量は牛肉が20.6トン、豚肉5.9トン、鶏肉4.5トンなのに対して、大豆は2.5トン、さやえんどうで0.5トン、とうもろこしは0.4トンである(農水省調べ)。
さらに今後、地球温暖化や大規模な紛争などで、今まで通り、食料を輸入できなくなる可能性もある。危機管理の側面からも、代替タンパク質のひとつである代替肉への取り組みに、期待されている。
世界に先駆けたオランダの事例
世界中でサーキュラーエコノミーに最も積極的に取り組んでいる国の一つがオランダ。オランダは農産物の輸出国世界第二位の農業大国で、特に農業関連のサーキュラーエコノミーには積極的に取り組んできた。
cellular agriculture(細胞農業)へ、Dutch Growth Fund(オランダ成長ファンド)を通じ、これまで世界最大となる6,000万ユーロの公共投資を行っている。2020年、オランダ王国農業・自然・食品品質省は「国家タンパク質戦略」を発表し、今後5~10年で植物性タンパク質と革新的タンパク質の自給レベルを引き上げることを目標に掲げている。そして、2023年には、オランダ政府はEUで初めて、培養肉(動物の細胞を体外で組織培養することで得られる肉)の試食を合法化している。
こうした政府のバックアップを受けて、多くの企業が代替肉市場に参入しているが、注目されているのが、ブラバント州で事業を展開しているRedefine Meat社の3Dプリンターによる代替肉の開発である。
肉を徹底分析して3Dプリンターのデータに
3Dプリンターは切削加工の様に原料を削って形作るのではなく、材料を一から積み重ねながら形作っていく。肉は動物の細胞が積み重なってできていくため、肉の構造により近いものになる。
Redefine Meat社の技術者は開発のために肉そのものの基礎研究から始め、徹底的に肉の分析を行った。肉がどのように整形されているのか、脂肪分と繊維質の組み合わせなど、肉の特徴を完全に把握し、それをデータとして蓄積したのである。そしてそのデータを3Dプリンターに入力して、肉を再現した。完成した3Dプリンターの肉は、ミシュランレストランのメニューにも登場して好評だという。