絶対に言ってはならない“小さな、え”とは?
今回は、私がアナウンススクールで叩き込まれた「絶対に言ってはならない“小さな、え”」について記したい。
言ってはならないのに詳しく説明するのもどうかと思うが、この“小さな、え”は、話し始めの最初に自分では気づかず付けてしまうことが多いのである。
アナウンススクールの講師が言っていたのは、これは話し方においては悪癖中の悪癖であり、自身で細心の注意を払っていないと連発してしまう可能性が高いとのこと。話し始めに“小さな、え”をつけるとアナウンスが上手に聞こえているような錯覚に陥りやすく、「アナウンスが上手いと自分に酔っているようなタイプが連発する」と、まぁサンザンな物言いだった。
恐らくここまで読んでも理解されていない方が多いと思うが、この“小さな、え”は、まさにプロのアナウンサーらが連発しているのである。
誰がよく“小さな、え”を言うかなぁと気を付けてテレビを見ていたところ、某在京局で「若いのに安定感がある」と評判の夕方のニュース担当の女性アナウンサーがもっとも連発していた。いや、他にももっといるのかもしれないが、彼女の場合、すべてのコメントの冒頭に“ちいさな、え”が入っており、気になりだしたらそればかり気になってしまい、内容が全く頭に入ってこなくなってしまった。
今よりももっと職人気質のアナウンサーが多かった時代なら、絶対に先輩から注意をされていたはずである。
“先輩”で思い出したが、以前、採用担当の某局の男性アナウンサーから、「もう何年も“声”なんかで採っていない」と聞かされ、愕然としたことがあった。私はラジオ出身なので、アナウンサーというのはまず美声であり、多くの視聴者、聴取者にとって聞きやすい声であることが最優先されると思っていたのだが、近年、特にテレビの場合は「声よりも顔」「声よりもキャラ」だと聞いた。
まぁ、それも時代なのかもしれないが、少なくとも「滑舌」や「アクセント」などアナウンサーとしての基本は身に着けていてもらいたいと思う。
そして“小さな、え”だ。一般の方なら直さなくてもいい? アナウンスが上手に聞こえるのなら付けてもいいのではないか?
いやいや、試しに人前でプレゼンをしたり、司会をしたりするような機会があったら、是非、それを録音して、後からチェックをしてほしい。
次に言うべきワードやセンテンスがすぐに出てこず、「あの~」で繋ぐのと同じかそれ以上に、冒頭の“小さな、え”は聞いていて聞きづらいはずである。
接客やプレゼン、会見の司会などにおいて、第一印象で「この人はデキる」と思わせられる人の話し方は概して美しいのだ。今からでも決して遅くないので“お勉強”してほしい。
文/山田美保子
1957年、東京生まれ。初等部から大学まで青山学院に学ぶ。ラジオ局のリポーターを経て放送作家として『踊る!さんま御殿‼』(日本テレビ系)他を担当。コラムニストとして月間40本の連載。テレビのコメンテーターや企業のマーケティングアドバイザーなども務めている。