新型コロナの影響でタクシー乗務員が激減した中、京都や福岡、過疎地などでタクシー不足が深刻な状況という。それを補うため、一般のドライバーが自家用車に乗客を乗せ目的地に送り届けるライドシェア解禁論が持ち上がっている。しかし、日本では安全面や事故対応などを不安視する声が少なくない。そのあたりの背景を検証しておこう。
特別な事情がない限り白タク行為になる
原則として日本ではライドシェア=自家用車による有償旅客運送は、いわゆる「白タク」行為として禁止されている。例外として過疎地の交通空白地における移動手段確保や公共の福祉のため、行政などが住民の運送を行うことができ、これを利用して住民サービスに役立てているところもある。
では、公共交通機関の発達している東京や大阪など大都市の場合はどうだろう? とくに心配されるのは、既存のタクシー並みに乗客の安全を守れるかという点だ。これを考察するには、タクシーがどのように管理されているのかを知る必要がある。そこで東京の大手タクシー会社を例に、乗務員の育成や資格、車両の安全性について触れておこう。
乗務員デビューまでの道のり
まずはドライバーである乗務員については、次のような資格取得や研修が行われている。
運転免許
旅客運送を行うには普通二種免許を取得する必要がある。以前は普通一種免許取得から3年以上、21歳以上の縛りがあったが、現在は特別な講習を受ければ一種免許取得から1年以上、19歳以上で取得できる。もちろん技能と学科、両方に合格しなければならない。
健康診断
タクシー会社に入社する際に必須。アルコール問題や血圧、睡眠時無呼吸症候群を重点的なチェックをするところが多い。また、普通二種免許取得の条件として遠近感や立体感の判断能力を測る深視力検査に合格することも求められる。
新規講習
新たに乗務員となるには東京タクシーセンターで4日間の講習を受ける。車椅子乗客にも対応できるようUD(ユニバーサルドライバー)研修も組み込まれている。
地理試験
エリア内の幹線道路や交差点名、施設名に関する試験。40点満点中32点以上で合格だが、覚えるべき対象が非常に多く、タクシーセンターの研修を受けた人でも合格率は約53%。*2022年度実績
法令・安全・接遇試験
タクシー事業に係る法令、安全及び接遇に関する試験。45点満点中36点以上で合格。こちらの合格率は、タクシーセンター研修を受けた人で約96%。*2022年度実績。
社内研修
法人各社内での独自研修。タクシーセンターの研修と合わせ、上記各資格試験対策に日数を割いているところが多い。さらに、服装や挨拶などの教育、無線機器の取り扱いや独自の路上実習、社内検定も合わせると、新人乗務員の育成は1~2か月かかっている。
乗務員の健康チェック
定期的な健診のほか、乗務前に健康状態を確かめる点呼を行う。アルコールチェックは乗務前後で2回実施が基本。いずれもかなり厳しい基準で計測される。