がんもがん治療も怖くなくなる日も近い!?抗がん剤の効果を高めて副作用を大幅に減らす瞬芽ブドウ種子成分に秘められた可能性
2023.10.06■連載/阿部純子のトレンド探検隊
瞬芽ブドウ種子成分の抗腫瘍作用のメカニズムを明らかに
京都大学大学院医学研究科の鍋島研究室と徳島大学社会産業理工学研究部の宇都研究室では、「瞬芽ブドウ種子成分」と各種抗がん剤を併用したがん細胞実験を2020年12月~2023年6月に実施。
その結果、この成分を用いると、抗がん剤のみ使用の場合と比べて、がん抑制効果を飛躍的に高めることが判明した。特に乳がん患者で最も多いホルモン陽性乳がんでは約10倍の効果を確認している。
同成分を配合したカプセルを使った乳がんのヒト臨床試験が、カザフスタン国立カザフ医科大学病院においてアリポフ・ガビット教授(現アルマトイ地域腫瘍病院細胞学・病理学部長)によって行われ、抗がん剤の副作用の92%を抑えたという結果を確認した。
これらの研究結果は、9月に開催された「第82回日本がん学会学術総会」にて発表。9月22日には、日本発の瞬芽ブドウ種子成分の研究結果詳細について、京都大学 大学院医学研究科 鍋島陽一特任教授、徳島大学 宇都義浩教授、アリポフ・ガビット教授、京都大学 大学院医学研究科 安部千秋特定助教による記者発表が開催された。
「瞬芽ブドウ種子成分」とは、発芽直前のブドウ種子を特許製法により抽出した成分で、粉末化、カプセル化されたものもある。種子が発芽する際、休眠状態から発芽を促す活性化状態に急激に変換されることから、変化を誘導する様々な機能性成分が含まれる可能性があると期待されている。
瞬芽ブドウ種子成分には抗酸化活性、抗炎症活性、アレルギー抑制活性、抗腫瘍活性など多様な可能性が期待され、民間企業が先行して開発し、サプリメントや化粧品として製品化されているものもある。今回発表されたのは「抗腫瘍活性(抗がん性)」に着目した研究で、以下のような結果が発表された。
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瞬芽ブドウ種子成分は、トリプルネガティブ乳がん、乳がん、肝臓がん、子宮がん、前立腺がんといった多様ながん細胞に対して高い抗腫瘍活性を示し、瞬芽ブドウ種子成分の添加によって、抗がん剤(ドキソルビシン)の細胞死誘導効果が相乗的に増強。各種のがん細胞種においても同様にドキソルビシンの増強効果があり、多くのがん種に対して、瞬芽ブドウ種子成分と抗がん剤の併用効果があると推定される。
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カザフ医科大学のアリポフ氏らの研究によってヒト臨床試験が行われたが、瞬芽ブドウ種子成分の投与により抗がん剤の副作用が92%抑制と顕著に軽減、QOLも改善された。
現在は臨床試験が3年半の経過観察の状況で、一般的には5年経過したときの結果により比較されるが、患者の生存率は高い数値を維持している。
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瞬芽ブドウ種子成分の抗腫瘍活性の機構メカニズムはまだ解析中だが、生命を維持するために自発的に細胞死を起こす「アポトーシス」と、ネクローシス(制御されない細胞死)が制御された形態の「ネクロプトーシス」を同時に阻害すると、瞬芽ブドウ種子成分による細胞死が抑えられた。このことから、アポトーシスとネクロプトーシス両方の経路を誘導することで、細胞死を引き起こす=抗腫瘍活性化を示唆している。
「瞬芽ブドウ種子成分と抗がん剤の併用効果は普遍的なのか?という点で、解析で使用したのは乳がん治療に使用されるドキソルビシンだったため、他の抗がん剤でも同じ結果が得られるのかということが、今後解決すべき課題です。
ヒト臨床試験を通じて瞬芽ブドウ種子成分の抗腫瘍活性、抗がん剤の増強効果や副作用の軽減などしっかりと検証していく必要があり、次の臨床試験を計画しています。
さらに次のステップである医薬品開発を目標にする際には、瞬芽ブドウ種子成分の反応機構、作用点の解明、瞬芽ブドウ種子成分に含まれる抗腫瘍活性の本体を解明する必要があります。
今回判明した中で注目すべき新たな点は、プログラム死のアポトーシスとネクロプトーシスの2つが動くという珍しいメカニズムが、強い抗がん活性につながっている可能性があるということです。さらに、細胞実験ではがん種に関わらず効果を発揮し、トリプルネガティブ乳がん細胞でも効くということも分かりました。
抗がん剤の副作用の緩和と、がん抑制のメカニズムが今のところ同じかもしれないと我々は考えていますが、これからの検証が必要です。少なくともその1つのポイントがミトコンドリアで、これが非常に重要なターゲットとなるだろうと思っています。
健康な人ならミトコンドリアの活性化は活力を生み出しますが、がんはミトコンドリアの数を減らしたり、活性化を抑制したりしています。
瞬芽ブドウ種子成分はミトコンドリアの活性化作用が非常に高く、それが抗がん作用につながっていくかということが、大きな注目点になりますので、今後その点も検証していきます。
瞬芽ブドウ種子は植物の種の成分です。“がん患者の未来につなぐ種”として、今後も研究を進めていきたいと思います」(宇都氏)
気になるのは副作用だが、市販されているサプリメントや美容液では副作用は報告されていないという。
「副作用は健常者とがん患者を分けて考える必要がありますが、瞬芽ブドウ種子を使ったサプリメントを販売している会社にはカスタマーレポートというフィードバックがあり、レポートには改善されたことや、想定外で起きたことなど、さまざまな意見が寄せられており、我々が研究するためのとても大きなヒントになっています。カスタマーレポートの中に副作用についての報告はなく、我々としてもとても勇気づけられています」(鍋島氏)
「すい臓がん患者の4名の方に、抗がん剤と、瞬芽ブドウ種子成分のサプリメントを併用して飲んでいただいています。1名はまだ飲み始めたばかりですが、3名は非常に良い効果が出ています。
うち1人は国立大学附属病院の患者さんで、抗がん剤とサプリメントを併用することを病院としては嫌うことが多いのですが、主治医の許可を得て一緒に飲んでいただいています。
私たちと連携している大学病院でも、すい臓がんの患者さんに実際に使っていただき実績もあります。すい臓がんは抵抗性が高く、発見されたときはすでにステージ4、余命1年以内ということが多いのですが、抗がん剤との併用によって症状が改善されて、1人の方は数値が正常まで下がりました。特筆すべき一例だと思います」(宇都氏)
「すべてのがん患者さんに効くということではなく、良い効果を出す場合と、残念ながらうまくいかない方もおられます。
すい臓がんや質の悪い肺がん、脳がんといった重い症状の方に対しても効果があるように開発していきたいと考えていますが、だれでも飲めばいいのではなく、効く方と効かない方の仕分けの方法ついても、研究・開発していきたいと思っています」(鍋島氏)
【AJの読み】様々な可能性を秘める「瞬芽ブドウ種子成分」へ期待感
今回の発表では、瞬芽ブドウ種子成分の摂取により、抗がん剤の効果を高め、副作用を大幅に減らす可能性があるという報告だったが、発表でもあったように、瞬芽ブドウ種子成分は抗酸化活性、抗炎症活性、抗老化活性についての可能性も示唆されている。実際、美容情報に敏感な美容マニアの間では、アンチエイジング素材として瞬芽ブドウ種子成分の抗酸化サプリやジェルは知られており、抗がん性だけでなく、肌トラブルやアンチエイジングに対しても期待が高まる。
「第50回日本皮膚免疫アレルギー学会でも発表しましたが、アトピーのマウスモデルで瞬芽ブドウ種子成分を使うと、非常に痒みを抑制することができ、血中のアトピーのマーカーも下がるという結果が出ています。すでに国立大学附属病院の皮膚科の教授と連携して、論文ができそうな状況になっています。
また、抗がん剤の影響で肌荒れしているがん患者の方に、瞬芽ブドウ種子の美容液を使っていただくと、肌荒れがすぐに抑制されたという報告も数例ありました」(宇都氏)
アトピーに対しては自由診療のクリニックで使っているケースもあるが、医薬品として出ているものはなく、医薬品化を目指して今後さらに瞬芽ブドウ種子成分のメカニズムや課題の解明に取り組んでいくという。
文/阿部純子