2年前の東京五輪で「スポーツクライミング」が競技としてはじめて採用されました。当時、身一つで壁を登る選手の姿に衝撃を受けた視聴者も多かったのではないでしょうか。「スポーツクライミング」は2024年のパリ五輪、2028年のロサンゼルス五輪でも正式競技として採用されることが決定しています。
今回は「スポーツクライミング」、特に「ボルダリング」のはじめ方を紹介したいと思います。
大人から子どもまで楽しめる人気のアーバンスポーツへ
「スポーツクライミング」は「ボルダリング」「リード」「スピード」の3種目に大別できますが、私たちにとって最も身近なのは「ボルダリング」です。東京オリンピックに前後して、都心部ではボルダリングジムのオープンが相次ぎました。一説には競技人口は60万人とも言われていますが定かではありません。しかし、現在も連日、ボルダリングジムは大人から子どもまで賑わっており人気のアーバンスポーツとして定着しています。
ボルダリングの消費カロリーは意外と高く、体重60kgの大人が1時間ボルダリングをすると365.4kcal(※)にもなります。また、複雑な壁を登る際に自分の頭で考えて登る必要があるため、考える力と体を動かす力を育てるスポーツとして子どもの習い事としても人気があります。
残暑も落ち着き、少し身体を動かしやすい季節になってきました。大人も子どもも「ボルダリング」をはじめてみてはいかがでしょうか?
(※)消費カロリーはMETsを用いた計算式を使用。消費カロリー=「METs×時間×体重(kg)×1.05」。ボルダリングのMETsは国立健康・栄養研究所の「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」の「ロッククライミング:岩に登る、横移動をする、低~中難易度」を参照し、「5.8」で計算
ボルダリングは子どもと一緒に楽しめるスポーツとしても人気
ビジネスマンから子どもまで人気のスポーツ「ボルダリング」
今回、お話をうかがったのは神奈川県・川崎市にあるボルダリングジム「BOULDER BOYS KLUB」の店長でボルダリング歴15年以上の上野森羅(うえの・えきら)さん。まずは最近のボルダリング事情について話を聞きました。
武蔵小杉駅から約10分。「BBK」の愛称で親しまれるボルダリングジム
――ボルダリングのお客さんはどのような方が多いのでしょうか
男女問わず20代半ばから40代くらいまで仕事終わりや休日にエクササイズ感覚で来られる方が多いです。また、小学生のお子様をボルダリングのキッズスクールに通わせていたら、お父さんやお母さんの方がはまってしまったというケースも非常に多いですね。
――最近はお子様への習い事にも人気があると聞きますが
そうですね。体操やバレエのように体幹を鍛えることができる点とパズルのようなスポーツなので頭の体操にもなる点が人気の理由です。
――昔と比べて、ボルダリングジムやお客さんの数にどのような変化はありますか
気軽に楽しめるようになったおかげで「ボルダリングをしたことがある」という人はかなり増えてきた印象です。昔は都内でもボルダリングジムは数えるほどしかありませんでしたが、東京オリンピックを機にジムも増えて、今では大きな駅の駅前にはボルダリングジムがあるのが当たり前。そのおかげで仕事終わりの2~3時間やお昼休みの1時間でふらっとボルダリングを楽しむこともできるようになりました。色々な趣味を楽しみたいといういまのライフスタイルにも非常に合っている気がします。
ボルダリングの準備&服装について紹介
――ボルダリングをする際、準備するモノはありますか
ボルダリングは極端な話、体一つでできるスポーツです。専用の靴(クライミングシューズ)と滑り止めのチョークは必要ですが、基本的にボルダリングジムでレンタル可能です。後は、動きやすい服装であればボルダリングを始めることができますよ。
必要なシューズとチョークはレンタルできる
――どのような服装がいいのでしょうか
Tシャツに長ズボンもしくは半ズボンという方が多いです。長ズボンの場合、少しストレッチ性がある素材の方がおすすめです。ノースフェイスのようなクライミングブランドでも、アディダスやナイキといったスポーツ系ブランド、ユニクロやGUのようなファストファッションでも問題ありません。みんなそれぞれ好きなファッションで楽しんでいます。
Tシャツと半ズボンスタイルもおしゃれ
長ズボンは少しゆったりとしたカーゴパンツが人気。年齢、性別問わず半袖+長ズボンor半ズボンが基本スタイル
――反対に控えた方がいい服装はありますか
初心者であれば、半ズボンよりも脚を保護できる長ズボンの方がいいかもしれません。また、指輪やネックレス、時計(スマートウォッチ含む)は外してください。ボルダリング中に壁などにぶつけて壊れてしまうこともありますし、引っ掛かったりして怪我する恐れもあり非常に危険です。
NGな例。大切なアクセサリーや時計が傷つく恐れがあるのでボルダリング中は外しましょう
ボルダリングは「課題」をクリアするスポーツ
――改めて、ボルダリングはどのようなスポーツでしょうか
ボルダリングは壁についたホールドを登るスポーツです。ボルダリングジムには、ホールドを使った様々なコースが用意されています。このコースを「課題」と呼びます。課題は初心者向けから上級者向けまで様々ですが、どのジムにも、必ず初心者が楽しめる課題はありますので安心してください。
――初心者向け、といってもやはり筋力がないと難しそうですね
そんなことはありません。普段運動をしていない人でも「はしごを登れない人はいない」ですよね。ボルダリングの初心者向けの課題は、はしごを登れれば登れるような課題です。力がなくても登れます。カップルで来て女性の方が登れる、親子で来て子どもの方が登れる、なんてこともよくありますよ。
――そうなんですね。壁の角度も様々ですよね
はい。地面に対して垂直に立っている壁もあれば、90度未満すなわち向こう側に傾いているスラブと呼ばれる壁や、反対に120度や130度など、こちらに向かって傾いている強傾斜と呼ばれる壁もあります。実は壁の角度が大きいと難しいというわけではないのがボルダリングの面白いところです。
――なるほど。それでは課題を登る際のルールを教えてください
まずはスタートの印が付いたホールドを手で持って、地面から足を離したらスタートになります。そのまま、指定されたホールドを使って登っていき、最後はゴールの印が付いたホールドを両手で掴んだら、課題クリアです。スタートポジション、ゴールポジションともに、しっかりと両手で「保持」することがルールです。例えば、ゴールのホールドを一瞬だけタッチしたという場合は残念ながら課題クリアとは認められません。保持の目安は、2秒間体勢を維持できるかどうかです。
両脚をマットから離して、体勢を維持出来たらスタート
ゴールをしっかりと保持してクリア
ボルダリングの壁の高さは一般的に4~5mほどあります。課題を登った後、飛び降りるのではなく、ホールドを使って少しずつ下りてきましょう。下にマットが敷いているとはいえ、飛び降りてしまうと怪我のリスクがあります。また、登り始める前にしっかりと準備運動をすることもお忘れなく。まずは安全第一で楽しみましょう。
はじめて来られた方でもジムのスタッフが丁寧にレクチャーやアドバイスをしています。男性でも女性でも、大人から子どもまで、みんなが一緒に楽しむことができるスポーツ、それがボルダリングです。ぜひ一度、体験してみてください。
――上野様、BOULDER BOYS KLUBの皆様、ありがとうございました
取材・文/峯亮佑