■連載/阿部純子のトレンド探検隊
デブリの増加で悪化する宇宙環境
運用終了や故障した人工衛星、打ち上げロケット上段の残骸など、軌道上にある不要な人工物であるスペースデブリ(宇宙ごみ)。デブリ除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールは、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の「商業デブリ除去実証(CRD2)」におけるフェーズⅠの契約企業に選定され「ADRAS-J」を開発。対象デブリに超接近し、長期にわたり放置されたデブリの運動や損傷、劣化状況の検査、診断を行うミッションを担う。
1957年に世界で初めて人工衛星が打ち上げられて以来、軌道にはデブリが増加している。近年は交通管制、天気予報、放送・通信、災害監視、地球観測、測位・物流、金融・IT、IoTと様々な分野での衛星データ活用の活発化に伴い人工衛星が増加、デブリ問題は世界の課題となっている。
「数年前までは衛星を持っているのは20数カ国でしたが、現在は200カ国に上り、世界の国々で宇宙開発が盛んになっています。宇宙関連の民間企業も活発で、フランスでは毎週1社の割合で宇宙ベンチャーが立ち上がっていると言われており、3年前は宇宙ベンチャーは世界で1万社でしたが、今では数えられないほどです。
多数の小型の人工衛星を連携させ、一体的に運用する『衛星コンステレーション』は世界で100以上。その結果、宇宙は混雑をしている状態になり、衛星とデブリの1km以内のニアミスの数が、2020年までは毎月1000回、1日66回だったが、2021年は3倍になり1日200回にも上っています。
宇宙は広いと思われていますが、衛星が飛び回る領域は限られていて、そこにおける物体の密度が閾値に達しており、デブリは秒速7kmから8kmという速さで動くため、1km以内のニアミスはほとんど衝突に近い状態になっているのです。
そのため、マヌーバーと呼ばれる衝突回避をする数が増えていて、現在、スペースX社のスターリンクという衛星は1時間に6回の衝突回避を行っているほど。これらの衛星は、高度550km~575kmくらいのところが散らばっており、新しく打ち上げた衛星がその領域を通ることになり混雑の度合いが急激に高まっています」(アストロスケールホールディングス CEO 岡田光信氏)
10㎝以上のデプリは、継続的に観測追跡されているものだけで約2万7000個、観測追跡できていないものも含めると3万6000個を越えているとみられる。サイズが小さくなるほど数が著しく増加し、1㎝といった豆粒大のものになると50万~100万個、1㎜以上のものは1億個以上あると推測されており、数は年々増加の一途をたどっている。
「スペースデブリ問題解決のためには、観測、モデリング、衝突回避、防御、低減、除去などの幅広い対策を国際的に取り組むことが必要となります。
特定の軌道高度において衝突確率が上がり、特に大型のデブリの大規模な衝突が起きると、大小様々なサイズのデブリが大量に発生します。特に厄介なのがミリとかセンチメートルの微小デブリが大量に出てしまうということです。
軌道高度が低いところは大気が少しあるため、徐々に高度が下がりデブリが無くなる自浄作用がありますが、高高度に微小デブリがまき散らされると、現時点では現実的な対処方法がありません。そうなると、特定の軌道高度でまたさらに衝突の確率が上がってしまって、負の連鎖として繰り返されることになります。すでに軌道高度900km前後の高度では、衝突確率が高くなっている状況です。
デブリが増えるメカニズムを生み出す、大型デブリの大規模衝突を未然に防ぐために、混雑した軌道にある大型デブリを除去するというのが、スペースデブリ除去の一般的メカニズムです。
デブリ除去の技術的課題が、姿勢防御機能、通信機能、GPS受信機、画像処理用マーカ、レーザー用リフレクタ、ドッキングメカが対象になるデブリに備えられていない『非協力的ターゲット』。これらのデブリには、ターゲットの姿勢運動を把握する、軌道情報を把握する、ターゲットに使える相対的なセンサー技術や衝突しないランデブー、近傍飛行あるいは捕獲、捕獲後に姿勢制御を成立させながら大きく軌道を変換するといった、さまざまな技術的な難しさが伴ってきます。
こうしたことを背景に、デブリ対策の事業化を目指す民間事業者と連携して、新たな市場の創出と我が国の国際競争力確保に貢献する取組みを行い、大型のロケットデブリを対象とした世界初の低コストデブリ除去サービスの技術実証を目指す、というのが商業デブリ除去実証の意義目的です。
初の試みなので技術を獲得することはもちろん、獲得した技術が民間企業の軌道上サービスにつながっていくということをプロモートする活動として位置づけています。
JAXAでは必要な技術を先行して研究したり、本プログラムにおいては技術的アドバイスや特殊なものも含む設備の利用によってサポートを行っていきます」(JAXA 研究開発部門商業デブリ除去実証チーム長 山元透氏)