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【勝手にブック・コンシェルジュ】のんさんにオススメしたい好奇心と向学心とガッツの塊である少女の物語「嘘の木」

2023.09.28PR

のんさんはがむしゃらに闘う自立精神旺盛な少女フェイスにどんな感想を抱くのか

舞台は19世紀後半の英国。14歳の少女フェイスが船に揺られている場面から、この物語は始まります。彼女の父サンダリー師は高い地位にある牧師にして高名な博物学者。旧約聖書に記されたエピソードの信憑性を裏づける、翼を持つ人類の化石という世紀の発見を成し遂げたことで名声を博します。ところが、ロンドンの一流紙によって、それが師の捏造であると書きたてられたことで評判は地に墜ち、美しく見栄っ張りな母マートル、6歳の長男ハワードともども、一家は世間の目から逃れるように、ヴェイン島へと移住することになったんです。

ヴェイン島に招いてくれたのは、この島で化石の発掘に関わっている面々、医師のジャックラーズ、治安判事のランバント、副牧師のクレイたち。ところが、捏造の噂は島まで追いかけてきて、人々は一家に冷たくあたるようになります。そんな中、サンダリー師が崖から落ち、木にひっかかっている姿で死んでいるのが発見されるんです。

科学者である父親を敬愛するフェイスは、化石の捏造も、父の死が自殺であることも認めようとしません。そればかりか、父は何者かに殺害されたのではないかという疑いを抱くようになります。手がかりを求めて、父が遺した書類を調べているうちに発見した手記。そこには、嘘を養分に育ち、その実を食べた者に〈だれも知らない秘密を明かし、世界の謎を解き明かす〉という不思議な木についての記述が。死体となって発見される前夜、父親がこっそり島にある洞窟の奥に何か植物を置いてきたことを思い出したフェイスは、〈嘘の木〉を利用して、真相を明らかにする決心をするのです。

という、ミステリーの要素を含んだ粗筋だけでも面白そうと感じてもらえるかもしれませんが、わたしが素晴らしいと思うのは、主人公フェイスの造型なんです。父親のような科学者になりたいのに、女性は男性よりも能力が劣るとみなされ、しとやかさや美しさや伴侶の支えとなることだけを求められた時代にあっては、かなえられそうにない夢。女だから行動も自由にならない状況で、誰も自分の訴えに耳を貸してくれない中、父の汚名をそそぐため、復讐を遂げるため、知力の限りを尽くし、時には他人を窮地に追い込むことも厭わない。

そんなフェイスが冒険を重ねた末に、夫や男たちの陰にいるだけのお人形と軽蔑していた女性登場人物らの真の貌を知り、〈自分はほかのご婦人がたとはちがうのだと思いこもうとしていた。でも、そうではない。ほかのご婦人がたもひとりひとりちがうのだ〉という成熟した認識にたどり着く展開が清々しい小説になっているんです。

真相を追求するために、嘘の木に虚言をそそぎこんだフェイスが、最後に気づく、自分自身に対してついていた大きな嘘。その嘘を認めることで得られる解放感が、読後胸にしみます。のんさんが、がむしゃらに闘う自立精神旺盛な少女フェイスにどんな感想を抱くのか、楽しみです。

文/豊崎由美(書評家)
『荒野に立つ』のMVも自ら企画演出したのんさんが、監督・脚本・主演を務める『Ribbon』も超お薦めです。新型コロナウイルスの感染拡大で発表の場を失った美大生の再生(reborn)を描いて、素晴らしい映像作品になっています。ブルーリボン賞がとれなかったのが無念でなりません。

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