【勝手にブック・コンシェルジュ 第1回】のん(能年玲奈)さんに、『嘘の木』を
まずはYouTubeの「のんOFFICIAL」チャンネルにアップされている、最新曲『荒野に立つ』のミュージック・ビデオを視聴してみてください。
NHKの傑作朝ドラ『あまちゃん』で人気者に。紆余曲折あって所属事務所から独立を果たすも、本名での活動を禁じられる。大手芸能事務所の圧力と、制作サイドの忖度によって、テレビ界からも映画界からも“見えない存在”にされ――。
のん(能年玲奈)さんのファンでなくても、彼女が芸能界から受けた理不尽な仕打ちはたいていの方がご存じではないでしょうか。
アーティストのヒグチアイさんがのんさんと対話を重ねて作ってくれた『荒野に立つ』の歌詞は、のんさんのこの10年間の想いを代弁して素晴らしく、能年原理主義者のトヨザキは何度聴いても聴くたびに泣きそうになってしまいます。
〈荒野に立つわたしは一人 燃え盛る火を眺めてた〉
のんさんが事務所に所属する芸能人という立場に自ら火を放ち、荒野と化した場所から、元所属事務所の圧力をものともしない理解ある諸先輩やクリエイター、力強くサポートしてくれる仲間たち、ファン、そして自分自身の才能と努力とガッツによって今の素敵滅法界たる居場所を作るまでが、イメージ喚起力の強い詩によって描かれているんです。
〈壊さなければ壊される 笑わなければ笑われる ぼろぼろの鎧まとって 錆びついた剣ふるって わたしはどこへ行こう〉
熱烈なファンでありながら、この頃の苦しい境遇にあったのんさんをただ見守るしかない歯がゆさと、元所属事務所への憤懣やるかたなさ。この歌を聴くと自分たちファンの10年間の気持ちも蘇ってきて胸がいっぱいになるんです。
皆さんご存じのとおり、30歳になった今ののんさんは荒野に自力で作った居心地のいい場所で、映画、演劇、音楽、CM、イラスト、洋服のデザインと、多ジャンルに才能を発揮する、のびのび豊かなアーティスト活動を展開しています。NHKがようやく『あまちゃん』の再放送をしたところを見ると、のんさんの姿をドラマで見ることができる日も近いのかもしれません。一ファンとしては、今後ものんさんが心の底からやりたいと思っていることを伸びやかに溌剌と実現させていくことを祈るばかりです。
さて、そんな独立精神とチャレンジ精神旺盛なのんさんはファンタジー作品がお好きなのだとか。でしたら、好奇心と向学心とガッツの塊である少女が、愛する父親の死の真相を明らかにするために大活躍するフランシス・ハーディングの『嘘の木』(創元推理文庫)をおすすめします。
『嘘の木』
フランシス・ハーディング(著)児玉 敦子(翻訳)
東京創元社