インボイスは、仕入れ時の消費税支払い証明書
現在、日本の事業者は「課税事業者」と「免税事業者」の2種類に分かれている。課税事業者とは「消費税を納付する義務のある事業者」で、免税事業者とは「消費税を納付する義務が免除されている事業者」のこと。前々年の年間課税売上が1000万円超であれば、自動的に課税事業者となるため、日本の企業は、ほとんどが課税事業者で、客から受け取った消費税の納付が義務づけられている。
一方、原則として前々年の年間課税売上が1000万円以下の事業者と、設立から2年未満の事業者(資本金が1000万円以上の場合を除く)は免税事業者となり、消費税納税が免除されている。つまり、取引先から消費税を上乗せした報酬を受け取りつつ、消費税納税が免除されているので、その分が利益となっているのだ。今回の制度改定は、こうした本来は国庫に収められるはずの消費税=益税を減らし、これまで免税されていた人からも、消費税を納税してもらうことで税収を増やそうというのが、実は大きな狙いなのである。
10月から同制度が導入されると、課税事業者が免税事業者に発注する際、発注先から仕入れの消費税率を正しく記したインボイスでの提出を求められることが多くなる。なぜなら課税事業者はインボイスがないと、仕入れ時の消費税支払い証明ができず、従来、仕入れにかかった消費税を差し引いて申告できていた「仕入税額控除」が受けられなくなる。結果、インボイスを発行しない免税事業者分の消費税を肩代わりする形で、発注側の納税額が増えてしまうからだ。
しかもインボイスを発行できるのは、発行事業者として登録して、登録番号を取得した課税事業者のみ。そのためインボイスを発行できない免税事業者は、前述のように、発注元に余計な税負担をかけてしまうことに。それが原因で、今後発注が受けられず、仕事を失う可能性さえ出てくるのだ。
一方でこれまで免税事業者だった人が、インボイス発行事業者になると自動的に課税事業者になるが、インボイスを発行できることで、発注元からの信用を得られる反面、これまで免除されていた消費税の納税に加え、経理業務の負担が増えるというデメリットも。
ただし、インボイス登録はあくまで任意であり、発注元の意向や業種によって、インボイス登録して課税事業者になるか否かは基本的にその人次第。さらに、制度導入にあたっては、インボイスなしでも発注元が50%または80%の仕入税額控除を受けられる6年の経過措置や、直近では令和5年度税制改正による中小事業者への負担軽減を目的としたルール改正も発表されているので、免税事業者は、これらも加味して課税事業者転換への検討を行ないたい。
納税の仕組み
消費者がお店に支払った消費税は、いわば預かり金。お店が消費者に代わって税務署に納める。消費税の課税対象は「事業者が事業として」モノやサービスを販売する場合で、個人での取引は課税対象外となる。
消費税の仕入税額控除の仕組み
仕入税額控除とは、生産、流通などの取引段階で重複して税がかかることのないよう、課税売上に係る消費税から仕入れや経費などにかかった消費税額を控除する仕組み。今後、インボイスの発行がない取引では、この仕入税額控除が受けられず、事業者側がより多くの消費税を支払う必要が出てくる。
※基準期間の課税売上高が1億円以下である事業者は、インボイス制度の施行から6年間、1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも帳簿のみで仕入税額控除が可能。
インボイス制度の導入で企業の経理業務が一変
ちなみに、このインボイス制度、会社員にはあまり関係のない話のように思えるが、請求書の確認義務の変更など、少なからず影響を受けるのは必至。免税事業者である個人事業主から届くインボイスの登録番号のチェックや、「インボイス」と「インボイスでない請求書」の分別作業などが生じるほか、会社員が領収書をもらって「経費」として利用する場合は、インボイスを求められる可能性が高い。得意先の接待や打ち上げの飲食代、従業員が着用する作業着のクリーニング代などがその一例。これに対応するため、「インボイスを発行できる店を選ぶ」というような社内ルールができることも考えうる。
さらに今後、インボイスが基本となることで、膨大な数になっていくと思われる経理業務の負担に対し、受発注を行なうシステムのデジタル化も加速。インボイス制度はそうしたペーパーレス化、デジタル化推進の後押しにもなるともいえるのだ。
インボイス(領収書)のイメージ
インボイスでは、新たに赤囲みした3点の内容の記載が必要となり、買い手の求めに応じて発行、保存が義務づけられている。免税事業者は発行不可。
構成/編集部 協力/守屋直子(税理士)
参考文献/『いちからわかる! フリーランス・個人事業主のためのインボイス入門』(インプレス)、『60分でわかる! インボイス&消費税 超入門』(技術評論社)、『世界一わかりやすい! インボイス』(高橋書店)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)