生成AIで求められる広告ビジネスの転換
生成AIは聞きたいことに、ずばり答えてくれる。もちろんその答えがすべて正しいわけではないが、使ってみると実に便利で、これが従来のネット検索に置き換わる流れは、不可逆のようにも思える。Googleは生成AIをきっかけに、検索広告のビジネスモデルを転換することになるのだろうか。山本氏は「テックジャイアントの大規模なビジネスモデル転換は、これまでにもあった」と話す。
「Appleは当初『Mac』を売っていたがそれが『iPhone』になり、今はストリーミングなどのサービスで収益を伸ばしている。Microsoftも、かつてはソフトウェアのパッケージを販売していましたが、今はサブスクリプションサービスに切り替わっています。Googleが稼ぎ方を変えても、何も不思議ではない」というわけだ。
実際にGoogleは2016年から「AIファースト」を大きく打ちだし、スマートフォン『Google Pixel』シリーズでは、オンデバイスで動作するAIに注力。「Google Cloud」でも、AIを用いた様々な機能をAPIとして企業に提供している。
「AIを組み込めれば、いろんなデータを活用できるが、それで今の広告ビジネスの伸びを強化できるのか。先ほど話したように、検索が生成AIのような形になれば、広告ビジネスはむしろ鈍化するでしょう。例えば生成AIを用いた検索を、プレミアムサービスとして有料化するなど、大きな変革が求められるかもしれません。創業者ならいざ知らず、その大胆な判断が今の経営陣にできるのか。スンダー・ピチャイCEOには、相当なプレッシャーがかかっているのではないかと思います」
デジタル後進国・日本の伸びしろに期待
昨年秋にはそのピチャイCEOが来日し、日本のデジタル化に対して約1000億円という大規模な投資を発表している。これは「Googleの日本に対する期待の表われ」だと、山本氏は見ている。
「日本では『iPhone』が圧倒的なシェアを誇っている。Google Cloudも、AmazonのAWSやMicrosoft Azureに比べるとシェアがとれていません。また日本ではいわゆるITベンダーが強すぎて、多くの企業がベンダー任せになってしまっている。これは見方を変えれば、Googleにとって日本は、それだけビジネス的な伸びしろがあるということ。今年、千葉にデータセンターも開設されましたが、中国に入れない中でアジアへの展開を考えた時に、地政学的に見ても、日本への期待は大きいのだと思います。ただ、1000億円と言いますが、インドにはさらに桁違いの投資をしていることにも、目を向けたほうがいいでしょう」
広告一本足打法からの脱却。次なる一手はヘルスケア
次に、Googleが注力するのはどの分野か。「競争環境を見ると、今Apple、Amazon、Microsoftが注力しているのはヘルスケアです。ヘルスケアという巨大なデータが、テックジャイアントの次の主戦場になりつつあるのは間違いない。Googleもソフトウェア、ハードウェアの両方でデータを取っていきたいと考えているはずです。
このデータを、検索広告に使っていくという方向性もあるかもしれませんが、新たな収益の機会も引き続き模索していると思います。そもそも、彼らの持ち株会社の社名が『アルファベット』なのは、AからZまで様々な事業を展開していくという考えからです。それを粛々と進めていくということでしょう。
今やAppleもAmazonもMicrosoftも、収益の柱を複数持っています。Googleも多くのビジネスを展開していますが、いまだその収益の多くは広告に依存している。この一本足打法から脱却を図り、柱になる新たなビジネスを育てていくこと。そのために模索し続けているというのが、Googleの〝今〟だと思います」
世界ではAndroidが『iPhone』を圧倒
日本では『iPhone』が大きなシェアを誇るが、世界のスマートフォンOSのシェアではAndroidが7割を超えている。Googleは自社ブランド『Pixel』シリーズの国内販売を強化する。
生成AIを用いた検索(SGE)を試験提供
8月30日から「Search Labs」で、生成AIを用いた日本語検索機能の試験提供を開始。生成AIと屋台骨である検索広告ビジネスをどう融合させるか、注目が集まっている。
日本のデジタル化に約1000億円を投資
昨秋にはスンダー・ピチャイCEOが、岸田文雄首相を訪問。インフラ、人的資源の両面で、日本のデジタル化に約1000億円を投資する「デジタル未来構想」が発表された。
千葉県印西市にデータセンターを開設
4月には千葉県印西市に、国内初となる大規模データセンターを開設。国内向けのサービスの高速化、安定化だけでなく、アジア展開へ向けた地政学的意味合いも大きいと推測される。
テックジャイアントの主戦場はヘルスケアへ
Googleは2021年にFitbitを買収。同機能を踏襲したスマートウオッチも発売している。テックジャイアントのヘルスケア分野への投資や買収が相次いでおり、注目を集めている。
京都大学
経営管理大学院客員教授
山本康正さん
東京大学卒業後、米銀行を経て、ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。Googleに入社し、日本企業のDXや新規事業投資を支援する。ビジネスとテクノロジーの知見を生かし、ベンチャー投資家としても活躍。
取材・文/太田百合子