楽しそうだから作った?
――正直、乗換案内はすでに十分便利だと思うのですが、トレインキャストの機能を開発した経緯は?
尾崎:驚き、感動、喜び、ワクワク。弊社にはこの4つの言葉の頭文字をとった『おかよわ』という、開発のキーワードみたいなものがありまして、全国にこんなにたくさんの列車が走っているんだというのを視覚的に見てもらえることができれば『おかよわ』につながるのではという思いで制作しました。
――乗換案内は、移動時間の速さ、料金の安さ、乗換回数の少なさなど、便利さを追求したサービスですが、この機能は便利さにつながっていないかと……。
尾崎:(キッパリと)はい、便利さとの追求とは違った視点の機能です。でも、眺めていてワクワクしませんか?
――面白い機能だとは思いますが、新幹線や特急だけでなく、普通列車も表示するのはやりすぎかと。
尾崎:最初は新幹線と特急だけ表示する感じで作ってみました。で、社内で見てもらったのですが、みんなの驚きがいまいちで。だったら普通列車を入れてみようということになりました。
――普通列車も含めるとデータが膨大なものになって大変でしょう。
尾崎:表示する列車の数が10万本を超えますからね。
――フロントエンド開発担当の江田さん、何か言いたそうですが。
江田:普通列車を入れるのは本当に大変でした。大量の列車を動かすデータが重くて、最初に出来上がったバージョンはデータの読み込みに20分かかりましたから。
――お気持ちお察しします。ところで、表示される列車のアイコンですが、列車って一般的には横から見たものが多い。でも地図上に配置するとなると、上から見た列車にしなければ違和感がある。そのあたりはどのように工夫されましたか?
尾崎:列車のアイコンは、先頭部分、いわゆる顔と呼ばれる部分にこだわってもらいました。この部分がハッキリしていれば見ている側もイメージがつきやすい。バックエンド開発を担当する鯉沼には顔の部分の描き分けに細心の注意を払ってもらいました。
鯉沼:新幹線15、有料列車75、普通列車700以上。ある程度の車両のパターンは描き分けられたと思います。
――描き分けで大変だった車両はありましたか?
鯉沼:N700AとN700Sが難しかったです。
――列車のアイコンをタッチすると、列車の写真が出てきますが、素材はどのようにして集めましたか?
尾崎:基本、人力で。みんなが持っている素材や、撮影したものを集めました。
――なんか、ものすごい手間が掛かっているように感じますが。
尾崎:会社の開発テーマである『おかよわ』には合致しているので……チーム総出で頑張りました。
――鉄道会社は毎年3月にダイヤ改正が行われ、そのタイミングで時刻がガラリと変わったり新型車両がデビューしたりします。毎年大幅な書き換えがあると大変では?
尾崎:そのあたりは、みんなで協力して乗り越えます!
――トレインキャストの技術って他の分野に転用できそうですか?
尾崎:楽しそうだから作ったんで、そういうのは……。
フワッとした感じで真相に迫ろうと思いましたが、面倒になったのでド直球で聞いた結論が、まさかの「楽しそうだから」でした。
見ている側からしたら、都心部の路線はもちろん、ロープウェイや沖縄のモノレールなど、地図をスクロールさせると様々な発見があって楽しい機能だ。なので、バス路線に対応させたり、「ななつ星」「四季島」などの豪華列車も表示してくれと思います。が、電車を愛する者としてお話をうかがって思ったのは「上の人に『この事業は採算が取れてないのでは?』と気づかれないよう、うまくやってくれ!」というものでした。
Yahoo!乗換案内のトレインキャスト機能は現在iOS版を公開中。iPhoneユーザーの方はヒマな時に眺めてみてください。
<取材協力>
山本 拓巳(やまもと・たくみ)
「Yahoo!乗換案内」・「Yahoo!路線情報」サービスマネージャー
尾崎 哲哉(おざき・てつや)
「Yahoo!乗換案内」・「Yahoo!路線情報」プロジェクトマネージャー
鯉沼 龍太(こいぬま・りゅうた)
「Yahoo!乗換案内」・「Yahoo!路線情報」バックエンド開発エンジニア
江田 卓也(えだ・たくや)
「Yahoo!乗換案内」・「Yahoo!路線情報」フロントエンド開発エンジニア
取材・文/渡辺雅史