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アナログ規制撤廃で「仕事のための仕事」は減っていくのか?

2023.09.27

TOKYO2040 Side B 第27回『アナログ規制撤廃と標準化でDXは原点回帰へ』

※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。

システム標準化で自治体のリソースを確保

 デジタル庁の公式サイトにて、9月8日に閣議にて改定された「地方公共団体情報システム標準化基本方針」が公表されています。

参考:地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化
参考:地方公共団体情報システム標準化基本方針(令和5年9月8日閣議決定)

 これまで「自治体システム2000個問題」と言われていた、1700以上ある自治体をはじめとした公共団体がバラバラにシステムを開発してきたことで、互換性が無かったり、ベンダーロックインに陥っていたりするなどのことが弊害としてありました。

 そこで、2021年から基幹業務システムの統一や標準化が進められていたのですが、より一層の移行を支援するために改定されたものです。

 標準化への移行は2025年と従来路線は維持しつつ、移行困難なシステムに限っては一部猶予を認めることになっています。遅れを容認しているという見方もありますが、構築された年代や作りによっては移行や改築が困難なシステムが想像以上にあり、作業できる事業者も限られていることから、現実に合わせたと見るべきでしょう。

 建造物など目に見える物質であれば、移設や改造工事にどれくらいかかるのか、見積もるだけで大変な作業であることが素人であっても理解できます。しかし、ITのシステムは目に見えない部分が大半であり、作業を見積もることは実際に作業をするのと同じくらい労力がかかるものでありながら、なかなか理解されません。

 ガバメントクラウドへの移行が推奨されていますが、これにしたって、家庭のパソコンを買い替えたときにソフトを移すのとはまったく違います。新型のクラウドサーバーへソフトウェアをインストールし直したら良く動くだろう、というような「新しい皮袋に新しい酒を入れる」だけの発想ではどうにもならないのです。

 この標準化基本方針を読むと、地方公共団体はどのようなスタンスで進めていくべきか、そこにデジタル庁と総務省、所管省庁がどう関わっていくのかということが、簡潔に書かれていることがわかります。

 また、統一や標準化といっても受託する民間事業者の競争余地は確保されており、移行にあたっての補助も可能な限り行われるとのことで、自治体の財政負担を軽減した上で、官民が連携し、できる限りスピードを上げて行える環境を整えようとしていることが窺えます。

 その中でも「2.2 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化の目標」の「(3) システムの所有から利用へ」において、とても意義深いことが書かれています。個人的には冒頭の「標準化の意義」に記載されていても良いのではないかと思うほどです。


<引用>

 その上で、こうした負担を含めた業務全体に係るコストを抑え、削減することができた人的・財政的なリソースを、住民に寄り添って、真にサービスを必要とする住民に手を差し伸べるために必要な業務や、地域の実情に即した企画立案業務等本来職員が行うべき業務に注力できるようにする。

<引用ここまで>


 これはこのコラムでもDXの話題に触れるたびに書いてきたことでもあるのですが、今回の標準化に絡めた効率化で何が一番良いことかというと、システムに合わせて業務も見直され、人が人のために活動するリソースをより多く確保できるようになることです。

 時間を買うことはできませんが、DXによって作り出すことができます。少子高齢化社会が進行すると、公務員も減り、少ないマンパワーで行政サービスを維持しなければならない時代がやって来ます。この自治体システム標準化によって、厳しい未来が来てしまう前に「最初から立て直しておく」というのは大切なことです。

 さらにこの標準化によって円滑なデータ連携が企図されているのも注目すべき点です。これは2025年末までに行われます。システムが標準化されたとしても、データ要件がバラバラでは応用することができません。ですので、このタイミングで標準化基準に適合したデータが全国的に整備されることで、国や自治体はそれを前提とした新しいシステムが開発できるようになり、より一層の行政サービスがデジタルを基盤として提供されることになります。

 このデータのエコシステムとも言うべき素地は、2026年以降の行政を大きく変容させるきっかけになると考えられます。

アナログ規制で「仕事のための仕事」を減らす

 同時に、国で強く推進されているのが「アナログ規制の撤廃」です。先程の標準化同様、今に始まった話ではないのですが、この夏にデジタル庁がアナログ規制の見直しによる経済効果について中間報告を発表したことであらためて注目が集まりました。

参考:アナログ規制見直し、2.9兆円のコスト削減に デジ庁が試算
参考:「アナログ規制の一掃に向けた取組の進捗とデジタル臨調の今後の検討課題」

 アナログ規制の範囲には「目視規制」「実地監査規制」「定期検査・点検規制」「常駐・専任規制」「対面講習規制」「書面掲示規制」「往訪閲覧・縦覧規制」および昨年12月に追加された「フロッピーディスク(FD)等の記録媒体を指定する規制」があります。

 規制というと何か細かくて難しいイメージがありますが「縛り」に置き換えてみると一気に理解が進みます。テレビゲームを遊ぶときに「ジャンプ縛り(敵を倒さずジャンプだけでかわしてクリアする)」とか「パンチ縛り(キックや必殺技を使わないでクリアする)」なんて遊び方がありますが、なんのことはない場面が、縛りによって難関へと豹変することがイメージできるのではないでしょうか。

 一般的に民間企業では、例えば事務を紙でやろうがエクセルを使おうがクラウドサービスを使おうが会社の方針次第ですし、小さなオフィスで裁量を持たされているのであれば、どんなやり方をしようが構わないというところもあると思います。

 しかしながら国や自治体の仕事は法令で内容が決まっていますので、「人が目視しなければならない」「実際にその場所へ行かなければならない」「ずっとそこにいなければならない」「対面で行わなければならない」「書類は紙やフロッピーディスクやCD-ROMで提出しなければならない」といった「縛り」がこれまでたくさん存在していたというわけです。

 その数、なんと一万条項以上。これらの撤廃に伴って数々のデジタル化が期待されてもいます。ドローン、クラウド、オンライン申請、ビデオ会議、配信動画……。ありとあらゆる場面でDXが発生しますので、約2.9兆円のコスト削減や、約9,000億円の市場拡大効果が見込まれるというのも頷ける話です。

 アナログ縛りによって割かれていたマンパワーが解放されることにもなりますので、金額で現れる以上に、効果は高いと考えられます。先程の標準化で引用した部分に記載されていたとおり、「真にサービスを必要とする住民に手を差し伸べるために必要な業務や、地域の実情に即した企画立案業務等本来職員が行うべき業務に注力できる」ように変容していきます。

何度でも原点回帰して来るべき時代に備えておく

 標準化もアナログ規制撤廃も、国が音頭をとり、自治体に任せるスタイルですので、この効果が身近に感じられるためには、市町村レベルでDXが推進されなければなりません。

 ここまで大きな旗が振られて、なお住んでいる地域がアナログに凝り固まっているのであれば、それは首長や地方議会のやる気のなさかもしれませんし、選出した住民の「意思」の現れなのかもしれません。

 昨日の延長が今日である、そればかりではいずれ少子高齢化に呑まれて立ち行かなくなる未来しかありません。今日の変革が明日を作る、という方向に切り替えて考えていきたいものです。

 DIME本誌で連載している小説『TOKYO2040』では、今日の変革で作られた未来と、昨日の延長で作られた未来とが、綯い交ぜになった世界を描いています。連載もそろそろ三年を迎えようとしていますが、現実は日進月歩のようで一進一退でもあり、2040年の世界がどうなっているかは、その時まで生きて、この目で確かめて答え合わせをしたいと思っています。是非お読みください!

文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。

このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。

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