NTT法が見直されるとどうなる?
房野氏:ドコモと言えば、NTT法の見直しも最近は議論されていますよね。
石川氏:そうですね。自民党内で、防衛費を確保するためにNTT株を売ってもいいんじゃないかという議論が始まろうとしています。とはいえ、一気に売ると大変なので、20年くらいかけようかという話です。ただし、完全に民営化される時に、NTT法は変えてほしいというのがNTT側の主張。島田社長が言うには、NTT法の縛りによって、例えば研究開発をする際には開示義務があるので、結果としてパートナーと組む時には、先に情報を出さないといけないために嫌がられることがある。過去を振り返ると、孫さん(ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫 正義氏)が「光の道」といって、全国にある光ブロードバンドは、他社に持たせて、3社なり4社で共有したほうがいいと言っているし、最近は髙橋さん(KDDI株式会社 代表取締役社長 髙橋 誠氏)も似たようなことを言っています。
今回、NTT法が見直されるかもしれない、NTT法そのものがなくなるかもしれない中で、「NTTの存在をどうするのか」というところまで、本来は議論しなければなりません。
日本電信電話株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 島田 明氏
石野氏:一応、NTT東西が持っているアクセス網に関しては、従来通り各キャリアに貸し出すという話をしています。
石川氏:そうは言っているけど、どうなるかわからない。
法林氏:元々、NTT東西が持つ光回線は、KDDIやソフトバンクなど、各通信事業者が交渉して、借り入れる金額を決めています。実は、NTTドコモも同じ立場で、同じNTTグループ内だからといって、自由に価格が決められるわけではない。ただ、光回線をはじめとした設備や施設の一部は、旧電電公社時代からの資産も含まれている。今後、NTT法の見直しをしていく中で、こうした部分も含め、改めて協議しなければならない。
たとえば、携帯電話サービスを提供するうえで、結局、各社共、光ファイバー回線は使うので、この際、光ファイバーは統一した特別な会社や政府に持たせたり、共同出資した会社に管理させるなんていう手もある。いろんなやり方があると思うので、そこまで踏み込んだ議論をする必要がある。
海外では国と地域の通信インフラを持つ公社みたいなものがあって、各社がそこから借りるという仕組みを採用しているところもある。これも方法論としてはあるよね。ただ、天下りができてしまうと、面倒なことになるので、その部分をどう対策していくのかも考える必要があるし、各社間の競争をどうやって担保するのかも大事。総務省というか、政府がインフラのコストをどうやって下げていくのかを決める基本的なルールを作ってこなかったので、そのままNTT法をばらしてしまうと、ちょっと危ない気もする。
石野氏:NTT法の見直しは年内という話もありますね。
房野氏:そんなに早いんですね。
法林氏:やることとしては間違っていないと思う。国防のため、防衛費の捻出のために、政府として持っている財産を売りましょう、手が付けやすいのはNTTの株です、という理屈はわかる。ただ、一気に売っちゃうとNTTの株が希薄化してしまうので困るから、20年かけて売ろうという話。NTTが自社株として政府から買い取ってもいいしね。
基本的に考えないといけないのは、インターネットに限らず、無線通信の時代から、通信は国の最重要インフラのひとつです。国として絶対に守りたい部分を、総務省や経産省を含めて考えないといけない。もう1つあるのが、クラウドをどうするのかという話。グーグルとかAWSとか、アメリカのクラウドを使っているけど、そのままでいいのかという話もあります。本当は日本で作るべきだし、そこにお金を出してもいいはずです。それこそ、クラウドとファイバーネットワークを合わせた会社を作ってもいいし、政府が管理してもいい。
石川氏:NTT法には、外国人の役員を認めないという、今の時代には考えられないルールがあったりするので、そういうところも見直さないといけない。このままいくと、世界からどんどん遅れをとってしまうので、もっとNTTがやりやすい状況にしないといけないと思う。
法林氏:ただ、国防上、本当に外国人を役員にしていいのかという指摘もある。
石川氏:そうですね。結局、長期的ビジョンを持って議論できるかどうかだと思います。お金のためではなくて、日本の通信をどうするのか、NTTをどこまで一体化するのかが大切なので、総務省の有識者会議などで、よく話し合ってほしいです。
……続く!
次回は、楽天のOpneAIと協業について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦