3. 民法改正によって削除された「懲戒権」
従来の民法では、親権の内容の一つとして「懲戒権」が定められていました。
懲戒権とは、親が子どもに対してしつけなどを行う権限をいいます。「懲戒」には、口頭で叱る行為だけでなく、殴る・ひねる・縛る・押し入れに閉じ込める・食べ物を与えないなどの行為も含まれると解釈されていました。
懲戒権については、児童虐待や体罰などを正当化する口実に利用されているのではないかとの批判が根強く存在しました。
そのため、2022年12月16日に施行された改正民法によって懲戒権の規定は削除され、現行民法では懲戒権が定められていません。
親権者は引き続き、親権(監護教育権)の一環として、子どもに対するしつけができると考えられます。
しかし次の項目で解説するように、しつけの際には、子どもの人格を尊重することが義務付けられ、体罰などの有害な言動は禁止されます。
4. 親権を行使する際の注意点
親権の行使に関しては、民法において以下の3つの重要なルールが定められています。
①子の人格の尊重等(民法821条)
②財産の管理における注意義務(民法827条)
③利益相反行為(民法826条)
4-1. 子の人格の尊重等
親権者が子どもの監護および教育に当たっては、子どもの人格を尊重するとともに、その年齢・発達の程度に配慮しなければなりません。
さらに体罰など、子どもの心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動は禁止されています。
4-2. 財産の管理における注意義務
親権者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、子どもの財産を管理しなければなりません。
自分の財産だったら到底しないような不適切な取り扱いを行い、子どもの財産を毀損させた場合には、親権者は子どもに対して損害賠償責任を負います。
4-3. 利益相反行為
親権者と子どもの利益が相反する行為については、親権者は家庭裁判所に対して「特別代理人」の選任を請求しなければなりません。特別代理人はその行為について、親権者に代わって子どもを代理します。
(例)
・親子間で不動産を売買する場合
・親子がともに相続人として遺産分割を行う場合
など
特別代理人の選任が必要であるにもかかわらず、それを怠って親権者が子どもを代理した場合は「無権代理」となります。
無権代理によってなされた法律行為は、追認等がなければ子どもにその効果が帰属しません。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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