デフォルトリスクとは、『デフォルト(債務不履行)』が発生する可能性のことを指します。デフォルトリスクの詳細やリスクを判断する指標、実際に発生したデフォルトの事例を紹介します。
デフォルトリスクって何?
デフォルトリスクとは、『デフォルト(default)』が発生する可能性を意味する言葉です。そもそもデフォルトとは何を意味する言葉なのでしょうか。
デフォルトは「債務不履行」を指す
『デフォルト』とは、債務不履行のことを指し、債務者が特定の行為や債務を果たさないことを意味します。
金融業界で『デフォルト』というときは、債務者が過失や故意により債券の元利払い・償還できないことを指すのが一般的です。債務不履行の状況によって、以下の三つに分類されます。
- 履行不能:完全に債券の元利払いや償還が不可能な状態
- 履行遅延:債券の元利払いや償還が、取り決めた利払い日や償還日に遅れる状態
- 不完全履行:債券の元利払いや償還が、一部のみ実行される状態
債券発行体がデフォルトになると、投資家が本来受け取るべき利息や償還金の支払い遅延・減額・不払いが発生する可能性があります。投資家は債券を購入する前に、債券発行体の経営状況等により、デフォルトリスクを精査しなければなりません。
債券は株などと比較すると、投資の安定性・安全性が高いといわれます。しかし、デフォルトリスクを無視すると、債券投資でも大きな損失を被る可能性があります。
株式市場への影響
デフォルトになった企業は、『支払い能力がない』と見なされ、社会的な信頼が失われてしまいます。企業の株は売り込まれ、上場企業なら上場廃止となるのが一般的です。業界全体にネガティブな要素がある場合は、同業他社の株価まで下がるケースもあります。
また、規模が大きかったり世界的な影響力を持っていたりする企業のデフォルトは、投資家の危機感をあおります。市場に与える影響が大きいと予想される場合、ポジションを手じまいして様子見する投資家も少なくありません。市場に売り注文が殺到し、世界的な株安につながることがあります。
デフォルトリスクを回避するための指針
債券のデフォルトリスクを把握する上で、重要な指標となるのが『格付け』です。どのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
代表的な方法は「格付け」
格付けとは、債券を発行する発行体の信用度または債券そのものの信用度を、評価・ランク化したものです。投資家は債券を購入する際、発行体や個別債券の格付けを見て、購入・見送りの決断をしたり、購入量を調整したりします。
債券の格付けを実施するのは、民間の『格付機関』です。よく知られているところでは、『世界三大格付け機関』に数えられるムーディーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチ・レーティングスがあります。
格付け機関は債券発行体の財務状況や支払い能力を調査・評価し、デフォルトリスクを判断・発表する仕組みです。格付けの種類は、以下の二つがあります。
- 依頼格付け:債券の発行体から依頼を受けて格付けする
- 勝手格付け:依頼を受けず、格付機関が独自に格付けする
デフォルトリスクが少ない発行体・債券ほど高い格付けが適用されます。
格付けの表示方法
格付けの表示方法は、アルファベットが基本です。格付機関によっては『+』『‐』を組み合わせるところもあります。
例えば、日本の格付機関『格付投資情報センター(R&I)』では、債券の発行体について『AAA』を最高位とし、『AA』『A』『BBB』『BB』…と9段階で格付けしています。最下位の『D』はすでにデフォルトしており、債券の回収がほとんど見込めない状態です。
一般に、格付機関の格付けはAAAからBBBまでが『投資適格』とされます。BB以下は『投機的格付け』となり、慎重な投資が必要です。
注意したいのは、デフォルトリスクの低い発行体の債券ほど、利率が低い傾向がある点です。債券投資で利益を上げたい場合は、リスクと利率を比較して『どのくらいのリスクまでなら許容できるか』を見極めることが求められます。
デフォルト以外のリスクは?
債券投資では、デフォルトリスク以外にも考慮すべきさまざまなリスクがあります。『流動性リスク』『インフレリスク』『価格変動リスク』について紹介します。
流動性リスク
流動性は、換金(現金化)のしやすさを表します。すなわち『流動性リスク』とは、金融商品を売りたいときに売れなくなるリスクです。
債券で流動性リスクを気にすべきなのは、中途換金する可能性のある人です。債券を売ろうとしても、買い手が見つからなければ取引は成立しません。人気・知名度の低い発行体の債券や小規模な自治体の債券などは、換金できない可能性が高くなります。
ただし債券は、満期になれば元本が償還される決まりです。債券を満期まで保有し続けるのであれば、流動性リスクを気にする必要はありません。
インフレリスク
インフレ(インフレーション)とは物価が上昇して貨幣の価値が下がることを指し、インフレにより金融商品の価値が下落するリスクを『インフレリスク』といいます。
例えば、300円の商品が600円に値上がりした場合、購入時にはこれまでの倍のお金を支払わなければなりません。実質的な貨幣価値は、『半分になった』といえます。
債券を購入しても、インフレ率が利率を上回れば利益はありません。インフレが進むことにより、利率の低い債券は資産価値が目減りしていく可能性があります。
国内債券は、現金や預貯金と並びインフレに弱い金融商品です。インフレリスクを重視するなら、インフレリスクに強いといわれる株・外国債券・金などへの投資も検討してみましょう。
価格変動リスク
債券は、市場の需要や金利の変動などによって価格が上下します。価格変動によって損失を被るリスクが、『価格変動リスク』です。
価格変動リスクによって影響を受けるのは、債券を満期前に売却するケースです。市場の状況によっては、売却価格が購入価格を大きく下回る可能性があります。
特に、現状よりも低い金利で購入した債券は、価格が安くなる傾向です。元本割れを避けたいなら、安易な売却はおすすめできません。
なお、債券を償還日まで保有する場合は元本が保証されるため、価格変動リスクを考慮する必要はありません。
実際に起こったデフォルトの事例
過去には大企業や国がデフォルトしたケースがあります。実際に起こったデフォルトの事例を紹介します。
JAL
JAL(日本航空)は2010年1月に会社更生法を申請し、実質的な経営破綻となりました。負債総額は2兆3,000億円以上にも上り、負債規模は事業会社として戦後最大といわれています。
経営破綻により株式は全て消却され、JALは上場廃止となりました。発行済みの社債についても、全てがデフォルトとなっています。
JALの経営破綻は、テロやSARS・リーマンショックなどの外部要因と、非合理的な経営体制・投資の失敗などの内部要因が絡み合って起こったとする見方が有力です。
デフォルト後は経営再建が成功し、2011年度決算では過去最高利益を計上しました。2016年には、経営破綻後初となる社債市場への復帰も果たしています。
ユニゾホールディングス
2023年に民事再生法の適用を申請し、事実上の経営破綻となったのがユニゾホールディングスです。負債総額は約1,262億円に上り、発行済みの社債約610億円がデフォルトとなりました。
ユニゾホールディングスは、不動産およびホテル事業をメインに展開する企業です。TOB(株式公開買い付け)を避けるため、日本で初めてEBO(エンプロイーバイアウト:従業員による企業買収)を実施したことでも話題となりました。
同社の資金繰りは、コロナ禍による業績不振や米投資ファンドへの返済負担によって悪化したといわれています。償還期日までに社債償還原資を確保することが不可能になり、デフォルトとなりました。
アルゼンチン
アルゼンチンは2020年5月、償還期日の国債約5億ドル(当時のレートで約540億円)の利払いを実施せず、デフォルトとなりました。これによりアルゼンチンのデフォルトは、2014年以来9回目となります。
このデフォルトは、支払い能力があるにもかかわらず債務不履行となる『テクニカルデフォルト』との見方が一般的です。同年8・9月には民間債券者団との合意・債券交換が実施され、デフォルト状態を脱却しました。
アルゼンチンがデフォルトを繰り返す根本的な原因は、改善しない国内の経済状況にあるといわれます。国債発行体としてのアルゼンチンの信用度は、高いとはいえない状況にあります。
構成/編集部