衛星通信が実現すると生活はどう変わる?
さて、KDDIとスペースXの協業により実現の可能性が見えてきた衛星通信ですが、KDDIは「スマートフォンと衛星の直接通信」を掲げています。一般的な通信は、キャリアが整備した基地局から飛んでいる電波をスマートフォンでつかみ、通信をするという方式ですが、基地局を介さず、宇宙で浮遊している衛星とスマートフォンが直接接続できるようになると、設備展開に左右されない、広い範囲で通信サービスを利用できるようになります。
先に触れた通り、現時点での面積カバー率は約60%。これは、基地局から電波を飛ばすため、山間部や島といった設備を整えにくい場所では、データ通信を利用できないことを意味しています。一方、衛星通信が実現すれば、宇宙から日本全土に電波を飛ばすことができるため、面積カバー率は〝実質100%〟といえる状態まで引き上げることができます。
KDDIは、スペースXとの協業で、「空が見えれば、どこでもつながる」というスローガンを掲げています。「空が見えれば」というのは、宇宙と直接通信をするという特性から、電波は微弱になると考えられるため、森林地帯のように葉が上空を覆っている場所においては、なかなか通信が難しいことを意味しています。
とはいえ、山の中でも少し開けた場所に移動さえできれば、衛星通信ができるようになると考えられます。また、災害時など、現状では通信が難しくなってしまう状況でも、衛星通信は活躍すると考えられるでしょう。
衛星通信サービスは2024年スタート予定
スマートフォンの衛星通信は、ドコモとソフトバンクが「HAPS」という、高高度プラットフォームの開発を進めているのに加え、楽天モバイルは「スペースモバイル」計画に取り組んでいるように、各通信キャリアが積極的に取り組んでいるプロジェクト。今回、KDDIが他キャリアに先んじて、サービス開始を発表した形です。
KDDI 代表取締役社長 CEO 高橋誠氏(左)とSpace Exploration Technologies Tom Ochinero氏(右)
KDDIとして、スマートフォンと衛星の直接通信サービスを開始するのは2024年内を予定しており、料金プランとして提供されるか、オプションとして提供されるかといった詳細は未定。KDDI取締役執行役員 パーソナル事業本部副事業本部長 兼 事業創造本部長の松田浩路氏は、「基本的には料金プランに入れるほうがやさしいだろう」と話しています。
KDDI取締役執行役員 パーソナル事業本部副事業本部長 兼 事業創造本部長 松田浩路氏
サービスイン当初は、メッセージ通信のみで利用できる予定で、順次、音声通話やデータ通信サービスにも活用できるように進めていくとのこと。音声や通信では、連続的なネットワークの接続が必要となるため、段階的に対応していく予定となっています。また、auのメインブランドに加え、UQ mobile、povoでもサービスを提供予定になっています。
衛星通信に使用する電波は、既存の周波数帯と共通しているため、ユーザーは現在使用しているハードウエア、ソフトウエアのままで衛星通信が利用できるようになるとされています。原理的には、いかなる価格帯のiPhone、Androidスマートフォンでも利用できることになるので、多くの人が恩恵を受けられる可能性があるといえるでしょう。
宇宙から電波を飛ばすという性質上、現在地上にある電波と干渉をする可能性があるなど、まだまだ実証実験をしなければならない課題があるのも事実。とはいえ、衛星通信サービスが実現すれば、登山中の遭難が減ったり、災害時の連絡手段が確保できたりと、通信サービスがさらに一段階上のインフラへと昇華する可能性があります。どのようなサービスになるのか、全貌はまだまだ見えないものの、「面積カバー率100%」という雲をつかむような話が、いよいよ現実味を帯びてきたといえるでしょう。
取材・文/佐藤文彦