米国雇用統計とは、米国の雇用情勢を示す経済指標です。原則として毎月第1金曜日に発表され、内容によっては株式や為替の相場が大きく変動します。米国雇用統計の概要や投資家たちに重視される理由、さらには特に注目すべき指標や相場に与える影響を紹介します。
米国雇用統計とは
『米国雇用統計』は毎月1回発表され、投資家からの注目度が高い指標として知られます。どのような統計なのか、詳しく見ていきましょう。
雇用情勢を示す経済指標
米国雇用統計とは、米国労働省労働統計局(BLS)が月次で発表する経済指標です。米国の失業率・非農業部門雇用者数・業種別雇用者数・平均時給・週平均労働時間などがまとめて報告されることから、米国における労働市場の現況を把握する上で重要な目安の一つとされています。
米国で公表されるさまざまな経済指標が、株価や為替に影響を与えるケースは少なくありません。市場が注目する経済指標にはさまざまなものがありますが、雇用統計はその中でも特に重視される経済指標です。
投資家や企業・エコノミスト・政府関係者は、米国雇用統計の数値によって米国経済の健全性や労働市場の景況感を把握します。
発表は毎月行われる
米国雇用統計が発表されるのは、原則として毎月第1金曜日です。他の経済指標に先駆けて前月の数値が示されるため、速報的な意味でも重視されています。
雇用統計の調査対象期間は、毎月12日を含む1週間です。期間中、米国労働省はさまざまな企業・政府機関からサンプルを収集・抽出し、調査結果を発表します。
なお、雇用統計が発表されるのは、北米時間の朝8時30分です。日本時間では22時30分頃ですが、米国がサマータイム(3月第2日曜日から11月第1日曜日)を適用している間は、21時30分頃の発表となります。
世界中の投資家が重視する理由は?
米国雇用統計の発表前後は、相場が大きく動くことで知られています。世界中の投資家は、なぜ米国雇用統計を重視するのでしょうか?
米国雇用統計を投資家が重視する理由
多くの投資家やエコノミストが米国雇用統計に注目するのは、FRB(連邦準備制度理事会)が重視する統計であるためです。
FRBは、米国の中央銀行制度における最高意思決定機関です。日本でいうところの『日本銀行』のような存在と考えればよいでしょう。
FRBは『雇用の最大化』『物価の安定』という二つの政策目標を掲げ、米国における金融政策を担います。FRBの金融政策の変更・決定によって、米国経済が動くといっても過言ではありません。
FRBの動向を注視する投資家たちにとって、雇用統計の数値がFRBの金融政策の方向性・金利の変動を把握する上での目安になります。
米国の個人消費はGDPの約7割
雇用統計で発表される『失業率』『非農業部門雇用者数』は、米国の個人消費の現況を知る上で重要な指標です。発表された数値を総合的に判断することで、米国全体の景況感を把握しやすくなります。
個人消費が重視される理由は、米国のGDP(国内総生産)の約7割を個人消費が占めるためです(2023年時点)。雇用統計で発表された数値を根拠に、FRBが政策金利の引き上げや引き下げに動く可能性があります。
国際市場における米国の存在感は大きく、米国経済が世界経済に与える影響は小さくありません。雇用統計は米国のみの経済実態を示す統計に過ぎないものの、国際市場でも非常に重視されています。
米国雇用統計で注目される三つの指標
FRBが特に重視するとされるのが『失業率』『非農業部門雇用者数』『平均時給』です。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
失業率
失業率は、『失業者数÷労働力人口』で算出される数値です。
失業者数は、16歳以上の働く意思を持つ失業者の数を指します。求職活動を諦めて、過去4週間以内に求職活動をしなかった人は含まれません。一方で労働人口は、失業者数と就業者数とを合わせた数字です。雇用統計では、割合と増減が発表されます。
失業率が上がれば個人消費は減退し、失業率が下がれば個人消費は増加する傾向です。失業率が米国の個人消費を把握する目安となるため、雇用統計では重視されます。
非農業部門の雇用者数
非農業部門の雇用者数は、農業部門以外の産業で働く雇用者数です。
雇用者数は、農業関連以外の民間企業や政府機関が示す給与支払帳簿を基に集計されます。前月の雇用について、実態が適切に反映されるのが特徴です。雇用統計では、数値とともに増減が発表されます。
また非農業部門の雇用者数は、投資家が特に重視する経済指標の一つです。市場の予測と実態とが大きく異なっていた場合、相場が乱高下するケースも少なくありません。雇用の実態を知る上で非常に重要な数値であり、特に製造業の動向に注目が集まる傾向があります。
平均時給
平均時給は、非農業部門の産業における1時間当たりの平均賃金です。雇用統計では、数値と増減が発表されます。
平均時給が高ければ個人の収入が増えるため、個人消費の増加が期待できます。とはいえ個人消費が増えても、物価が高ければ効果は相殺されてしまいます。
平均時給で景況感を測る場合は、インフレ率まで含めて判断するのが一般的です。平均時給の伸び率がインフレ率を上回れば、個人消費は活性化しやすくなります。『景気が良い』と判断でき、米国の株価は上昇する傾向です。
知っておきたい発表前後の相場の動き
米国雇用統計発表前後は、市場のボラティリティーが高まります。外国為替市場で取引を行う際は、相場の動きに注意が必要です。米国雇用統計発表前後の相場の動向や、為替取引における注意点を紹介します。
米国雇用統計発表前の相場の動き
雇用統計の発表前は、相場の動きが比較的緩やかになります。個人投資家の中には、荒れた相場を嫌忌する人が少なくないためです。
特にFX(外国為替証拠金取引)でレバレッジを大きくかけて取引している場合は、一瞬でロスカット(強制決済)となるリスクがあります。早めにポジションを手じまいし、市場の動向を注視する人も多いでしょう。ただし中には、大きくもうけようとギャンブル的にポジションを持つ人もいます。
なお、米国雇用統計の発表が毎回大相場になるというわけではありません。米国の経済状況によっては、CPI(消費者物価指数)などの発表の方に市場が大きく反応するケースもあります。
米国雇用統計発表後の相場の動き
雇用統計の発表後は、相場が大きく動きます。公表された数値が良ければドル買いが起こってドル高に、悪ければドル売りが起こってドル安に動く傾向です。
相場が大きく動くかどうかのポイントは、『市場にコンセンサス(合意・意見の一致)が形成されていたかどうか』という点です。
雇用統計前には金融機関などが予想値を出す上、2営業日前には『ADP雇用統計』が発表されます。市場は予想を織り込みながら、『売りムード』『買いムード』を形成するのが一般的です。
雇用統計の数値が予測通りなら、市場はすでに織り込み済みの状況です。サプライズなしとして、値動きは比較的緩やかになります。
一方、数値が予測と大きく異なる場合は、大きなサプライズです。ポジションを手じまいする売り・買い、新規ポジション取りの売り・買いが交錯して、ドルの価格は乱高下します。
発表前後に取引する場合の注意点
雇用統計発表前後に為替取引を行う場合は、リスク管理が重要です。例えばFX取引を行う場合は、『証拠金に余裕を持つ』『損切りのラインを決めておく』という点を徹底しましょう。
証拠金とは、レバレッジをかけた取引に必要な『担保となる資金』です。為替変動により証拠金を上回る損失が発生すると、ロスカットされてしまいます。わずかな証拠金でレバレッジを大きくかけて取引している人は、いったんポジションの整理をした方が無難です。
またロスカットによる損害を防ぐには、損切りのラインを決めておくことも重要なポイントといえます。売りまたは買いの注文を入れる際は、逆指値で注文を入れておきましょう。
逆指値注文とは、『指定した価格以上で買い』『指定した価格以下で売り』という設定を入れておくことです。指値注文をすれば、ロスカットに遭う前に損切りできます。
構成/編集部