「マルチエンディング」どころじゃない!
自然言語を使ってRPGの村人と自由に会話する、という技術は既に確立されている。
たとえば今年1月、中世アクションPRG『Mount & Blade II: Bannerlord』向けの「NPCを自由に会話できるMod」が公開され話題を呼んだ。これはChat GPTを使ったもので、当時は一般にも「自然言語で指示を出せるAI」の超絶進化が認識されるようになった頃。それから僅か8ヶ月、もはや「村人との会話」だけでは不十分に感じるほどAIテクノロジーはさらに発達している。
今後は「マルチエンディング」どころか、開発者ですらもどのようなエンディングになるのか予想がつかないRPGというのも登場するのではないか。
「あのキャラとこのキャラが結婚したら」「あのキャラとこのキャラが戦ったら」ということは、誰しも妄想するだろう。「もしもあの場面でこのキャラが死ななかったら、こういうことをしていたに違いない」というIFも人間なら考えてしまうものだが、そうした妄想をAIが実現してくれるかもしれない。
となると、「誰がこのゲームの主要キャラなのか」ということさえ揺らいでしまうのではないか。
AIと井伊直弼
たとえば、日本史には井伊直弼という人物がいる。彼は彦根藩主井伊直中の十四男として生まれたため、前半生は「一生涯日の目を見ることのないスペア」として過ごすしかなかった。ところが、彼の兄は早くにこの世を去るか他の家に養子に行ってしまったため、部屋住みの十四男に藩主の座が回ってきたのだった。
これ自体が直弼にとっては奇跡で、もちろん直弼自身も想定していなかった。が、それが人間世界というものでもある。
AIが前半生の井伊直弼のような村人を生成してしまう、ということも十分に考えられる。その時、ゲームは単に「ゲーム」という括りから大きく逸脱し、新たな可能性を我々人類に与える「リアルな異世界」として認識されるだろう。
【参考】
Generative Agents: Interactive Simulacra of Human Behavior
https://arxiv.org/pdf/2304.03442.pdf
取材・文/澤田真一