日本テレビが金曜よる11時にアニメ放送枠を新設する。第1弾作品となる『葬送のフリーレン』は、40年近い歴史を持つ『金曜ロードショー』で初回2時間スペシャルを一挙放送という異例のスタートを切る。背景には、配信プラットフォーム全盛の時代にテレビの復権を狙うテレビ局側の意図も。チャレンジングなアニメ枠新設の理由などを同社の佐藤貴博さんに尋ねた。
日本テレビ
コンテンツ戦略本部 グローバルビジネス局担当局次長
スタジオセンター長 兼 部長(アニメ・映画・テレビ)
佐藤貴博さん
1994年、日本テレビ入社。広告営業などを経て、映画事業部では『デスノート』『桐島、部活やめるってよ』などのヒット作を手掛ける。現在は、ストーリーコンテンツの企画開発・製作に尽力。
アニメをテレビで見るおもしろさを再発見してほしい
視聴率優先からコンテンツ中心主義へ
――なぜ金曜よる11時台にアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT」の新設を決めたのでしょうか?
佐藤貴博(以下、佐藤) 22年7月に公表した「中期経営計画」で弊社が掲げた「コンテンツ中心主義」が背景にあります。従来のテレビ局は、放送枠とそこからの広告収入が売り上げの主体でしたが、テレビ業界の状況を鑑みて、日本テレビでは社内にコンテンツ戦略本部を設け、地上波以外のマネタイズも視野に自社コンテンツの「価値最大化」を目指しています。ドラマや映画、アニメといったストーリーコンテンツの価値最大化を目指す中で、世界的に多くのユーザーに楽しんでいただける市場があるアニメを第一に考えてのものです。
配信プラットフォームも多くある現在、アニメファンにとって、テレビ局の存在感は薄れつつあります。そこでテレビで見るアニメのおもしろさを視聴者の方に再発見していただくべく、金曜よる11時のアニメ枠を新設しました。
――日テレの金曜よる11時といえば、放送開始から40年近い『金曜ロードショー』に続く時間帯です。
佐藤 そこにも、特別な意味があります。『金曜ロードショー』は長きにわたり、ジブリをはじめとしたアニメ映画も含め、視聴者に愛される作品を数多く放送してきました。視聴者に愛される放送枠に続く時間帯ですから、弊社としては大きな決断でした。
――従来は、豪華著名人が出演する紀行番組『アナザースカイ』の放送枠でしたし、視聴者層も変化しそうです。
佐藤 そうですね。放送枠の新設にあたり、社内調整では苦労もありました。アニメ枠となると、子供の視聴者も考慮する必要があるため、お酒などの広告は原則放送できないんです。当然、放送枠を売り込めるクライアントが限られてくるため広告クライアントと折衝する営業局との調整は必要でした。ただ、全社的に「コンテンツ中心主義」を進めようと動いていますし、弊社の将来のためにと熱心に説得して、了承を得ました。
――日テレでは火曜深夜など、ほかのアニメ枠もあります。それぞれ違いはあるのでしょうか?
佐藤 前提として、弊社は関東圏で番組を放送するテレビ局で、ほかの地域ではネットワーク局に放送していただいている構造があります。深夜アニメ枠は関東ローカルでの放送なので、ほかの地域では異なる放送日や時間帯で放送しています。しかし、新設する金曜よる11時台のアニメ枠は、全国で同時間帯に放送します。
――コンテンツの「価値最大化」もする中では、作品の2次利用、3次利用の利点も視野に入れているのでしょうか?
佐藤 もちろんです。従来、テレビ局を支える広告収入の指標は「視聴率」でしたが、視聴率だけではコンテンツの価値を測れない時代ですし、海外展開も視野に入れたうえで総合的に作品の価値を判断したいと考えています。
ただ、プラットフォームの中心がテレビであるのは変わりません。近年、スマートフォンなどで配信作品を楽しむ一方、スポーツの祭典など、他者と同じ時間帯に番組を見て楽しむ「共視聴」体験がテレビの持つ大きな魅力として再確認されています。力あるストーリーコンテンツはそのカギとなる可能性があり、実際、『金曜ロードショー』ではジブリ映画のような旧作の放映時に親子での視聴率が高いデータもあります。新設のアニメ枠では家族やパートナー、友人同士での「共視聴」体験が浸透すればと思います。
キャラクターの魅力や繊細なストーリー性が心に響くはず
『金曜ロードショー』は日テレの切り札
――第1弾作品として『葬送のフリーレン』を選んだ理由はどんなところにあったのでしょうか?
佐藤 作品の強いパワーを感じたからです。作風としては、かつて仲間と世界を救った1000年以上生きるエルフ・フリーレンが、旅の過程で人とふれあい、人を知って成長していく人間ドラマを描いています。激しいバトルやアクションで魅せる作品ではありませんが、キャラクターの魅力や繊細なストーリー性は心に響きますし、家族や仲間と見ていただくのにふさわしい作品だと確信しています。
――初回は『金曜ロードショー』で2時間スペシャル。異例の試みです。
佐藤 素晴らしい原作に対して、日本テレビの持つ最高の場所を提供しようという意図です。過去、『金曜ロードショー』で実績のあるアニメ作品を放送する機会はありましたが、連続テレビアニメ作品をいきなり放送するのは初めてです。本作企画の東宝さんや原作の小学館さん、日本テレビアニメチーム、皆いまだかつてない熱意を持って臨んでいますので、最高最大の切り札の番組で勝負できればと思っています。放送翌週からは金曜よる11時の通常放送となりますが、視聴者には『金曜ロードショー』でじっくりと『葬送のフリーレン』の魅力を知ってもらい、新アニメ枠を盛り上げていければと思っています。
――最後、読者へのメッセージもお願いします。
佐藤 金曜よる11時のアニメ枠新設は、弊社としての勝負です。「日本テレビが社運をかけるコンテンツとは?」と、ビジネスの観点からもぜひ、注目していただければと思います。今後も多くの方々に楽しんでいただいて、なおかつ、海外展開も視野に入れた魅力ある作品を放送していきますので、期待してください。
『葬送のフリーレン』とは?
勇者ヒンメルたちとともに魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした魔法使いフリーレン。1000年以上生きるエルフである彼女は人を知るために旅に出る。
9月29日の『金曜ロードショー』で初回2時間スペシャルでスタート!
『金曜ロードショー』でTVアニメシリーズの初回を放送するのは史上初、『葬送のフリーレン 初回2時間スペシャル ~旅立ちの章~』と題し、魔王を打ち倒した後のフリーレンや勇者ヒンメルたちとの再会、フリーレンの新たな旅立ちや出会いなどが描かれる。
最新11巻も9月15日発売!
アニメ放送に合わせて待望の最新刊も発売。歴史上で最も多くの魔族を葬り去った魔法使い・フリーレン。人類と魔族の〝人を知る〟旅路は、極北の黄金都市で交叉する。
©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
取材・文/金子修平 撮影/ANZ